工藤蘭丸

ヨーロッパの工藤蘭丸のレビュー・感想・評価

ヨーロッパ(1991年製作の映画)
3.7
ラース・フォン・トリアーの長編3作目になる1991年の作品。ここまでがヨーロッパ三部作と呼ばれているらしいけど、いずれも荒廃したヨーロッパが描かれているという共通点があるのかな。

それから、いずれの作品にも催眠術が出て来るのも共通していて、本作はいきなり観客を催眠に掛けるようなナレーションから始まるのが特徴的。こういうナレーションの使い方というのは、かなり珍しいかもね。エンドクレジットを見たら、ナレーターはマックス・フォン・シドーだったようで、何とも贅沢な名優の使い方でした。

モノクロの中に一部カラーが混じるのも3作とも共通していたけど、本作はその完成形という感じで、非常にアーティスティックでしたね。眠くなりそうな時にカラーが表れると、思わず目を見張りたくなるような美しさが感じられました。

ストーリー的には特に面白いとも思わなかったけど、この作品はカフカの『アメリカ』の影響を受けているらしく、タイトルのヨーロッパというのも、アメリカに呼応して付けられたらしい。

それで、久しぶりにカフカでも読んでみようかと思って図書館から借りてきたんだけど、まだ誰も読んだことがないような新品同然でした。1992年に出版されたカフカ全集の中の1冊だけど、今どきカフカなんて読む人はいないのかも知れませんね。(^^;

【追記】2024.2.21
カフカの『アメリカ』を読み終えたけど、これはカフカにしては珍しいリアルな普通の小説でしたね。

ドイツに住む16才の少年が、女中に誘惑されて妊娠させてしまったため、家を追い出されて単身アメリカに渡るという話で、アメリカからドイツに渡った本作の主人公とは逆。

そこで叔父の世話になるところまでは一緒なんだけど、その後は全く違う話で、小説の方は叔父の家も追い出されて放浪の旅に出るという話でした。結構面白かったんだけど、残念ながら未完に終わっている作品ですね。

本作も、ラース・フォン・トリアーにしては、わりあい普通の作品だったけど、それもカフカの影響だったのかも知れませんね。