不在

自由の幻想の不在のレビュー・感想・評価

自由の幻想(1974年製作の映画)
4.6
この映画は、ゴヤの絵画の再現から始まる。
ナポレオン率いるフランス軍によって、マドリードの市民が銃殺される場面だ。
ここで死を目前にした市民が、自由くたばれと叫ぶ。
それに端を発して、この世界から人々の自由というものは消え失せてしまった。

サルトル曰く、人間はみな自由の刑に処されているそうだ。
彼の実存主義によれば、人間にはあらかじめ決められた本質というものはなく、自身の手で自己を形成する自由を与えられたとされている。
しかし何もかも自由だからこそ、その責任は全て自分に返ってくる。
人々は責任を負う事を何より恐れる。
真の自由とは、結果的に人を不安に陥れるのだ。
映画の冒頭で建造物の写真からフロイト的連想ゲームをしているような場面があるが、そのフロイトも、サルトルと同じような事を言っている。
人間とは人生を自由に選択し、それに伴う責任を全うする事で初めて生きていると言えるのだ。

しかしこの世界の自由は死んだ。
負うべき責任も、それによる不安もない。
彼等はただ人を模した人形となってしまった。
だからこそナポレオンの時代から100年以上の時が過ぎても、この進化なき人形達は同じ事を繰り返すしかないのだ。
不在

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