ちろる

どですかでんのちろるのレビュー・感想・評価

どですかでん(1970年製作の映画)
3.9
黒澤作品底辺の生活をするスラムの人々と言えば、「どん底」!でしたが、あれとはまた違う昭和が作り出すどん底の世界。
始終リズムカルな舞台劇のようなあちらの作品とは異なりこちらはオムニバス的なごちゃ混ぜ感が印象的な作品でした。
どですかでん!どですかでん!と電車の車掌さんになりきる六ちゃんと、その息子の壊れ具合を嘆く母ちゃん。
ヤリマン妻のこさえる子どもを何食わぬ顔で育てる良太郎。
妻を交換する日雇い労働者の河口と増田。
謎の過去を抱えた平。
いやにインテリぶる夢想家の乞食の親子。
顔面神経症の島とその妻。
達観した彫金師のたんば。
そして、姪と暮らすアル中の京太。
なにか大きな事件が起こるわけではない。
このスラムで生きる彼らがすでに異様さの塊で、だからこそ彼らのその生活を覗き見ることが、十分にエンタメとなってしまうのだ。
リアリズムであるように見せかけながらどこか幻想的で、乞食の親子のくだりなんかは黒澤がこの後に描く「夢」の不気味さを思い出す。
よく考えればこの不気味さは当然で、夫婦交換だとか、不倫、性的虐待、殺人未遂などの出来事を単なる日常の出来事のように描いているのだから恐ろしい。
モノクロの時代を終えて、時代劇ではなく映画で現代と向き合わなければ行けなくなった監督が、これまでとは全く違う色で描いた意欲作。
ベテラン監督という肩書きを脱ぎ捨てて、老年期に入り突然こんなアナーキーすぎる視点で映像を作り出す黒澤はやっぱすごい、、、そしてやばい。
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