イチロヲ

8 1/2のイチロヲのレビュー・感想・評価

8 1/2(1963年製作の映画)
3.5
クランクインを控えている中年の映画監督が、鬱屈した現実世界と幸せな虚構世界を往来する。スランプに陥っている映画監督のトランス冒険譚を描いている、ヒューマン・ドラマ。タイトルは「フェリーニ単独作品8本目に、共同脚本の半分を足した」という意味。

閃きを失った「かつての職人脳」が生み出す混沌世界。人間不信の局地に突入している映画監督が、周囲の業界人・近親者に対して、おべっか使ったり、火に油を注いだりしていく。そして、「こんなのイヤだぁー」と言わんばかりに、妄想世界へと逃避する。

入れ代わり立ち代わり現れる人物たちを、カメラのパンと呼応するように、次々と映像に収めていくところが面白い。あらゆる演出テクニックが鮮やかに決まっており、業界内の息苦しいルーチンワークをユーモア満点に伝えてくる。

さほど親しくもない知り合いから、「昨夜みた夢の話」を延々と聞かされているような疲労感がなくもないが、普遍的な人間心理を題材に取り扱っているので、飽きることなく鑑賞することができる。「まぁ、分からなくもない」のヒトコトが素直な感想。
イチロヲ

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