三樹夫

8 1/2の三樹夫のレビュー・感想・評価

8 1/2(1963年製作の映画)
3.7
映画監督が新作を撮ろうとするも精神的に四苦八苦するという話。創作の苦しみあるあるで共感を持つのだろう、多くの映画監督が自身の『8 1/2』を作っている。たけし、はやお、庵野がそうだし、『バートン・フィンク』はコーエン兄弟版の『8 1/2』であり、長い廊下を手前に歩いてくるシーンは『バートン・フィンク』の中で再現されていた。
この映画にあるシーンの他作品への引用も多く、冒頭の渋滞は行き詰った映画監督の前に進めないという焦燥とイラ立ちを表現しているが、『フォーリング・ダウン』の冒頭は全くこの映画と一緒だった。空を飛ぼうとするも足にロープが結び付いていて下に引っ張られるシーンは映画制作を他者に足引っ張られる感覚そのままの表現だが、こちらのシーンは『未来世紀ブラジル』に引用されている。ツイストダンスのシーンは『パルプ・フィクション』へと引用されている。

プロデューサーや役者、批評家や宗教者があれこれ言ってきては悩み場面やつながりは観念的で全体的なストーリーは頭に入ってこない。また妻や愛人も出てきて罪悪感にかられると、一人脳内カウンセリング感が凄い。正直、妻や愛人はラストの救済感で何勝手に楽な気持ちになってるんだよと思うだろうな。こうやって混乱しているのが私ですと提示して終わる。映画監督はこれに共感しつつ、また一度は創作の苦しみや自分自身の葛藤を映画として吐露したいという憧れを抱くのだろう。この映画でフェリーニは観客の顔色はあまりうかがってはいないことが分かるが、観客の顔色をうかがうかどうかは監督によって違うだろう。例えばスピルバーグは批評よりも興行収入を気にすると言われている。
この映画ではバカでかロケットセットが建てられているが、階段を上っている時のカットなど普通にカッコいい。この映画は細かいストーリーは頭に入ってこないながらも、ツイストダンスのシーンなど画が凄く印象に残る。
三樹夫

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