マインド亀

8 1/2のマインド亀のレビュー・感想・評価

8 1/2(1963年製作の映画)
5.0
私小説的幻想風景映画の最高峰、金字塔

●巨匠が後年撮りがち、自分をさらけ出した私小説的幻想風景映画の最高峰にしてこの作品に影響を受けていない映画監督はいないと言われる全てのオリジン。最近では『君たちはどう生きるか』も宮崎駿版『8 1/2』と言えるのではないかなぁと思います。
今更ながらアマプラで配信されてるのを知り慌てて初めて鑑賞いたしました。
私のような大変不勉強な映画好きにとっては、フェリーニを観ることがこんなにも新鮮で衝撃的で面白いということが、今更ながら新たな発見でした。今現在かかってる映画のどれよりも面白いし、どれよりも美しく、先進的。そして全ての映像のインパクトが大きすぎて、ずっと鮮明にまぶたに残るようなイメージの連続でありました。

●こんな名作をレビューする知識量は圧倒的に足りてないため、ほんの少しだけまとめてみます。
まず冒頭の、主人公グイドの見る夢。状況の停滞を示唆する、渋滞する道路のシークエンス。走行するバスから浮遊し、そしてプロデューサーに引っ張られ海へと落下するシーン…もうこのイメージに初っ端から息を呑みます!
これ!
どうやって撮影したんだろう…おそらく多くの映画監督に影響を与えたと思われるシークエンスですが、もうここから圧倒的なオリジナリティが炸裂!完全に持っていかれました!

●温泉の情景をパノラマティックにパンしながら映していくシーンの、人物の配置と移動、行動、構図の美しさ。現代絵画のような全て計算された画面に釘付けです。
「ウェス・アンダーソンも影響受けたんだろうなあ、『ライフ・アクアティック』なんかは監督が主人公だし…」と思って調べたら、『ライフ・アクアティック』はウェス・アンダーソンなりの『8 1/2』をつくった、とのインタビュー記事が…
こうなるとあらゆる映画の元ネタ探しが楽しめる名作かもしれません…

●本作は最初から最後までずっと物語が停滞しています。
作品のクランクインは間近なのに本も役者も決まっていない絶望的状況。
世界中の監督がうなされる夢があるとしたらそれは全て『8 1/2』なんじゃないでしょうか。
いつまで経っても脚本を書くことのできないのに、8000万もかけたロケット打ち上げ台のセットだけは完成し…って作ろうとしてた映画、SFなの?
おそらく自分が作りたいもののアイデアを人に話しているうちに、色んな関係者を通して外堀を埋められてしまって全然違うものに転がってしまったんでしょうね。もう取り返しの付かない状況なのに、なにも思い浮かばない…そして役者やプロデューサー、製作チームからは常に追い立てられている…さらに批評家や、いち観客の娘たちにもこき下ろされている極限の状況…。

クリエイターがぶつかるジレンマをそのまま作品にしたことで、本作はクリエイター達からの共感を得、普遍性を獲得しているのかもしれません。

●また、現実との境目がどんどんとあやふやになっていく夢には、続々と主人公グイドの人生に関わった女性達が登場し、最終的には自己中なハーレムを形成しそこに逃げ込むことでグイドは現実逃避をするのです。現実では妻との仲は全く上手くいかない一方で、愛人に言い寄られたり、女優には役をせがまれるたり、グイドの女神クラウディアに説教されたり、自分を本来癒やすべき女性陣に救いがない状況でストレスが頂点に。
宮崎駿監督も『君たちはどう生きるか』で、自分が関わった女性達をモデルにしたキャラクターを登場させていましたが、フェリーニ監督は開けっぴろげに「女達よ!甘えさせてくれよ!」という情念を爆発させていて、ストレートによくまあ欲望をここまで表現できるなあと思いました。それでも夢の中で女性達の反乱を受けたりして、彼の苦悩と願望の針が急角度で振れていくので、グイドと同じく観客も全く心が休まる間がないんですよね。

●結局全てを終わらせ、全てを受け入れ、遅かりし活力を取り戻したあとの、宴のような幻想世界のラスト。
この開放感は、映画製作の業を背負うことの恐怖を浮き彫りにします。常にこんなプレッシャーと戦わなければいけない映画監督という仕事。私に取ったら恐怖でしかないですね。絶対にムリ。でもそれをそのまま作品にすることで、彼にとって救いになったのでしょうか。

●あと、特に印象的だったのが、グイドと妻ルイザのアイウェアの使い方のオシャレさ。めちゃくちゃ洗練されてて、つけたり外したりするところに、得も言われぬフェティシズムを感じてしまいました!やっぱりイタリア栄華には普遍的なオシャレさがありますよね。最高!

●このタイミングで本作を観られてよかったです。古典と思って二の足を踏んでる人がおられたら、これだけ先進的で美しい作品はないと断言しておきます!めちゃくちゃ良かったです!
マインド亀

マインド亀