KenzOasis

8 1/2のKenzOasisのレビュー・感想・評価

8 1/2(1963年製作の映画)
4.0
「幸福とは誰かを傷つけずに真実を伝えること」

序盤にある、海岸にいる男が引くロープに繋がれた足のカット。この超有名なシーンが観たくてずっと気になっていた作品をようやく。期せずして「パルプ・フィクション」のダンスシーンの元を観れて何より。

まずマルチェロ・マストロヤンニとアヌーク・エーメの圧倒的な美が最高。

全体を通して、もうとにかく混乱させられるんだけど、名声がもたらす優れたクリエイターの苦悩を巧みに、時にトリッキーな撮影で表現している。序盤のシーンのような「どうやってんの?」と思わせるものもあれば、駅で愛人を待つシーンの情景のようなシンプルに美しいカットもある。

それらに魅せられつつも、役をくれだの、いつ決断するのだの、嘘をつくなだの、私を欲しがれだの、早く作れだのと、要求ばかりされるグイドの環境と幻覚に、共に気が狂いそうにもなる。防衛本能なのか、何度かカクッとしてしまったので、2と2分の1回観たわ。

個人的にこの映画は、ものすごく荒削りに言うと「何もかも受け入れて与えてくれる美しい女神と一緒に過ごしたい」という願望が、どうあっても叶えられないとわかっているのに捨てられない男の話なのだ、と思った。

そう思った理由が、「幸福とは誰かを傷つけずに真実を伝えること」という不思議な魔力のある言葉。

この真理を、映画という嘘を作り出す存在でありながら、日常においても(というか人生において)誰をも確かには愛せておらず、虚構の多いグイドが語るという矛盾がある。

しかしグイドにはもう幸福の道はない。「すべてを投げ出したい」という真実でしか彼の幸福はなし得なくなっていて、その真実は彼にあれこれと要求している周囲の人にとっては傷つけるだけなのだから。

グイドが自死したのかは曖昧だが、いずれにせよ彼が突如「幸福を感じた」と言うからには、全てを投げ出すことにしたことは確かなのではないかな。

さすが、今なお語られる名作でした。
KenzOasis

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