ちろる

8 1/2のちろるのレビュー・感想・評価

8 1/2(1963年製作の映画)
4.2
かなり昔に一度、これを観たときは恵まれたおっさんが不幸ぶってるとしか感じられず面白いと感じなくて、私はフェリーニがダメなんだと思っていた。昨日は風邪気味で調子が悪くて頭がボーっしてた。
そんな状態で観たらなぜか素直にこのグイド(フェリーニ)世界が入ってきてグイドの苦悩と欲望の世界にすっぽりと取り込まれた。

監督とは思想を持って主張するべきものなのか、それとも表現するものなのか。
常に高尚なエンターテイメントを求める実利的な男たちと、自分を作り出した女たちの思い出によるリアリティが交差していくグイドの苦悩。
それは混乱して矛盾だらけなフェリーニ自身がありのまま投影されていて、もうめんどくさいから「苦悩」そのものを表現してしまったよ!ってな感じ。
特にフェリーニがカトリックへの思想を変革させるきっかけにもなる、砂浜の娼婦サラギーナのエピソードなどはとても生々しく、この物語の核といっていいほどに強いインパクトで描かれていた。
嘘や妥協がない作品を作りたいと願えば願うほど、このような人畜無害な少年時代に形作られた思想は纏わりついてくる。
作り出す作品や自分自身に純粋であろうとすればするほどに他人には分からない混沌としたものが生まれてくる。
グイドの言葉を借りるのであれば、これはたしかにフェリーニの中の内部で死んでいたものをすべて吐き出すための作品であったのだから、他人が意味を理解してくれるなんて思っちゃいない。
そうだ、こんな彼の(美しい)排泄物を見せつけられてるのだから観る時期で受け入れられない時と受け入れられる時があっても無理もないのかもしれないと思う。

ちなみにアヌーク エメとクラウディア カルディナーレの一番美しい時期を切り取って、この2人のミューズに酔いしれるマルチェロ マストロヤンニの視線がまだフェリーニ自身の妄想とごちゃ混ぜになって、私も2人の美しさに始終うっとりさせてもらえ、グイドのカオスな妄想とともにあらゆる種類の女性を愛でることができる作品でもあった。
ちろる

ちろる