螢

存在の耐えられない軽さの螢のレビュー・感想・評価

存在の耐えられない軽さ(1988年製作の映画)
3.5
ミラン・クンデラの同名小説の映画化で、ソ連支配下にあった1968年のチェコにて起こった民主化運動「プラハの春」に翻弄された一人の男と、対照的な二人の女を描いたもの。

有能な脳外科医だけど異常なまでに女好きなトマシュ。
トマシュにのめり込んでしまった世間知らずの田舎娘テレーザ。
性的には放埒で、トマシュと長年恋人関係にあったサビーナ。

何重もの意味で軽薄な人生を送っていたトマシュは、かつての自身の「政治的な言論」に足をすくわれ、そして、テレーザの激しさと純粋さにガラにもなく刺激されたのか、はたまた情が沸いたのか。
革命により、生命と尊厳の危機に晒されているというのに、恋と嫉妬に狂ったテレーザが起こしたあまりにも後先考えない行動に引きずられた最終的な結果として待ち受けていたのは…。

テレーザが、身寄りもない亡命国で、一生自分を守ってくれるか不安になるようなトマシュにすがるしかない頼りない自分の身の上に悲観して語る「存在の耐えられない軽さ」に対しては同情を感じないわけではないのですが。恋と嫉妬に囚われた結果としてあんな行動をとったことには全く納得できず。

むしろ、ぽっとでのテレーザにトマシュを奪われても、革命が勃発しようと、自分に忠実に、力強く、異国でも居場所を見つけるサビーナのほうが、観ている分にはよほど好ましかったです。友人には絶対になれないタイプですが。

身も蓋もない言い方をしてしまうと、政情不安に翻弄された浮気性な男と重い女の共依存の予想外の成れの果てという印象が最も強く残ってしまいました。

けれど、政情とそれぞれの欲望のぶつかり合いに翻弄された三人の姿にはどこか惹きつけられるものも確かにあり、読みたいけれど長年手に取れていない未読の原作を読みたい気分が高まったのは確かな作品でした。
螢