はなたまご

ベニスに死すのはなたまごのレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
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(↓長文が苦手な方)
色々な意味で「限界オタク」と成り果てた男のお話。
作曲家マーラーの美しい旋律はもちろんのこと、汚れ無き少年と病に蝕まれていく町と男の対比がなんともドラマチック。
この映画をきっかけに美少年ブームが起きたというのも納得。

(↓活字が好きな方)
”In all the world, there is no impurity so impure as old age”
(老年ほど不純なものはこの世にない)

 自身の不純さと対峙し愚かなまでに美を追い求める。そんな官能に身を任せたとき、アッシェンバッハは果たして真の芸術家となれたのだろうか。
 精神的活動としての芸術を通じ英智、真実、人間的尊厳の獲得を目指す彼の芸術論はバランスを何よりも重要視する。しかし、ヴェニスの地で出会ったポーランド貴族のタッジオはそんな彼を狂わせてしまうほどに眉目秀麗な少年だった。両性具有的でさながら神話のような美しさ、子どもらしからぬ静的な佇まいと少年らしい動的な無邪気さ、涼しげにも温かにも思えるその目線。タッジオはまさに圧倒的なバランス、黄金比を体現する存在で、アッシェンバッハの理想とする美だったかもしれない。だが一度その美を認めてしまった彼は、彼が最も恐れる精神の不均衡状態に陥ってしまう。この状態こそが究極の芸術的体験なのか、それは私達にも分からない。
 「アートは感じるものか、精神との会話を通じ意味を見出すものか」それは、光の渚に立つタッジオの姿を見て私達自身で決めてみよう。