このレビューはネタバレを含みます
アウシュビッツ強制収容所の隣に住む収容所司令官とその家族のお話。
とてつもない苦しみと痛みと死が壁の向こう側では繰り返されている。しかしそれすらも日常と化しやがて関心を寄せることも無くなる。日々は楽しく流れていき、さらなる楽園を作らんと庭仕事に勤しんでいる。絶え間なく上がり続ける黒煙の下では数万の人々が灰となっているにも関わらず、だ。この映画の不気味さはそうした強制収容所でのユダヤ人の苦しみにあえてフォーカスを当てない点である。主人公家族の生活や会話、司令官の父親としての側面やその妻の人間的な感情の機微に焦点を当てることで、加害者もまた人間である、という事実を見せつける。実在した司令官ルドルフ・ヘスは1947年にアウシュビッツ強制収容所で絞首刑となるのだが、ラストに階段で苦しそうにするのはそれを暗示しているのだろうか。
また、エンドロールに流れる音がとにかく恐ろしく、思わず耳を塞ぎたくなった。叫びにも聞こえるし、苦しみにあえぐうめきにも聞こえる。何かが激しく燃えているような音にも聞こえるし、なにかが静かに降ってくる音にも聞こえる。このような歴史は繰り返してはいけないと誰もが思っているはずなのだが・・・現実はどうだろうか。