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揺れる大地のBONのレビュー・感想・評価

揺れる大地(1948年製作の映画)
4.2
ネオレアリズモの最高峰。同年のヴェネツィア映画祭国際賞受賞作品。自身の出である豪華絢爛な貴族文化の栄華と滅びを描くスタイルではなく、セミドキュメンタリー精神を貫き、キャリア初期から本物にこだわり続けたヴィスコンティの神髄が感じられる一大叙事詩。当初は4部作の想定でイタリア共産党からの資金援助を得たが、撮影が途中で打ち切られヴィスコンティが完成までこぎつけた執念の一作。

シチリア島の漁村を舞台に、不当な社会と大自然に立ち向かう貧しい若者の姿を描いています。漁民達が命がけで水揚した魚は日々仲買人に買い叩かれる。飢えない程度の生活を送ることから抜け出すために、若者一家は家を抵当に入れ融資を受け舟と漁具を買って自立するが、荒れ狂う海に全てを失い失業者となり…という物語。

シチリア島アーチ=トレッツアの漁村でオール・ロケ、俳優を一切起用せず本当の漁民や住人をキャスティング。もはや貧しい漁村での生活をそのまま映し出したかのような映像だった。特に若者一家が極貧の時の穴ぼこだらけなボロ衣装の作り込みが素晴らしくて感心した。でも笑えない。プライドで命を捨てることなどできない、プライドで飯は食えないということが痛いほど分かるラスト。

「目を開くこと。生きて働きながら、結果として仲買人に搾取されるしかない、そのしがらみから解放されること。あまりにも長い年月、おそらく何世紀も彼らは耐えてきた。何にしろ生まれながら奴隷なのだ。もしわれわれのひとりに反抗しようという勇気があり、意識があるならば、みんながついてこよう。何のために仲買人のために働きつづけるのか」ルキノ・ヴィスコンティ

あっという間の161分。ロッセリーニ『無防備都市』(1945)、デ・シーカ『自転車泥棒』(1948)を鑑賞した後の空虚でこれからどうすればいいんだろう…という宙ぶらりんな不安感、これからまた続いていくのか…という搾取を約束された未来を感じた。想像を絶する貧困と絶望の中で一筋の光が入る描写は今でも時代を超えて人々を鼓舞し、愛され続けているとは分かっているものの、ネオレアリズモの系譜をゆく強烈な映像に叩きつけられ、明日から再び労働が続いていくことに対して絶望に襲われる。
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