ジャイロ

炎628のジャイロのレビュー・感想・評価

炎628(1985年製作の映画)
4.5
白ロシア

それは現在のベラルーシ

この映画の「628」という数は、第二次世界大戦のナチス侵攻によって焼き尽くされたベラルーシの村の数。この戦争でベラルーシは全人口の4分の1を失ったという。その数200万人以上。しかもそのほとんどは非戦闘員。

1943年3月22日、ベラルーシのハティニ村で起きた「ハティニ虐殺」

wikipediaを読んだだけで心が痛むこの出来事を、作家アレシ・アダモヴィチが戦争被害者の証言を集めて1冊にまとめて1971年に発表した「ハティニ物語」それを映画化したのがこの『炎628』

原題『Иди и смотри』(来たれ そして見よ)

これは「ヨハネの黙示録」第6章の死が乗った青ざめた馬が現れる一節から引用されたんだとか。当初「ヒトラーを殺せ」というタイトルだったけど、不適切ということでこの題名になったんだそう。


肌がヒリヒリする

胃をずっと鷲掴みにされているような、そんな感覚

いつ何が起きてもおかしくない。序盤から一時たりとも気が抜けない。完全に自然光だけで撮影されたというこの映画は、まるでその場に放り込まれたかのような錯覚すら覚える。得体の知れない異様な空気。観ているこっちとしては、かなりの集中を強いられる。

大人になりたくて背伸びする。甘っちょろい少年フリョーラには、母の涙が届かんのです。ヘラヘラ笑うんじゃない!!!分かってんのかーーー!!!

そんな少年が運命に翻弄されていく。自尊心も、悔し涙も、潰れた卵も吹き飛ばす、爆撃の轟音に耳鳴りが止まらない。かつての日常は音を立てて崩れ去った。くぐもったような暗い森、コウノトリの訪問は、まるで異世界に迷い込んでしまったような気がした。

やがて蹂躙される少年の世界

むせかえるほどの死の匂い

圧倒的泥沼

失ってはじめてそのかけがえのなさを知る

もはや取り返しのつかない事態を悟る

罪の意識に押し潰されそうになりながらも死ぬことすらできない。つらい。苦しい。観てるこっちまで息苦しくなる。なんだこれは。地獄か?

しゃれこうべから産まれたヒトラーと、生々しいほどの憎悪、その異様な光景にまんじりともできない。

この映画、銃撃のシーンは全部実弾とか正気か!?動物たちが本当に命を落としている。

月が昇るまでを前半とするならば、後半は本当の地獄が待っていた。ここから先は筆舌に尽くし難い。

怨嗟の声が聞こえる

炎が目に焼き付いて離れない

628という数字

200万人以上という途方もない数の命

理不尽な暴力に命を脅かされる日常はあってはならない