乙郎さん

エスパー魔美 星空のダンシングドールの乙郎さんのレビュー・感想・評価

4.0
久保はなぜ夢を諦めたのかー?


一度目観た時は純粋に涙を流した。ああ、俺も夢を捨てた時にこうやって鼓舞してくれる誰かがいたらと。
ただ、二度目観た時に少し引っかかりを覚えた。これって、とても残酷な話じゃないのか、と。

この映画の中でも第一の涙腺ポイントと言ってもいい、母を亡くした女の子を人形劇で慰める場面。二度目の鑑賞時、異様にハラハラしたのね。半年間経っているとはいえ、幼い子どものトラウマを刺激するような物語の展開に。あまつさえ、アニメという表現は人形と人間の区別がつきにくい。その子どもはまるで人間のように見える魔女と対峙する。この女の子は立ち直れるほど強かった。けれど、もしかしたら一生消えないトラウマを残すことになったかもしれない。

そこではたと思った。
久保は、表現の残酷さを思い知って夢を諦めたのではないかと。

物語としてはそうは流れていない。学生時代からの同志が夢を諦めたこと、もしくは生活苦が原因に見える。
しかし、この人形劇団に「魔美」という、物語の推進装置が入る。これは少年漫画の主人公に対して苦しい言い方かもしれないが、魔美は独善的なようにも見える。母親の喪失や表現の夢の喪失に対して、それが正しいことだと信じて外部から働きかける。
魔美という走り出したら止まらない装置は表現意欲が中学生女子の身体を借りているようにも思える。

そして、強過ぎる表現は時に誰かを傷つける可能性を有する。

久保はその危険性を察知したから表現への夢を捨てたのかもしれないし、共犯者の存在により夢を取り戻したのかもしれない。

この危険な表現への誘惑は、ラストで空を飛ぶ「魔美」の姿を観て感動する僕に対しても向けられている。それは確かだった。
乙郎さん

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