乙郎さん

カラオケ行こ!の乙郎さんのレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
4.5
やっぱりねえ、この手の作品には弱いわけですよ。まず、聡実が属する合唱部という世界があって、狂児の属するヤクザの世界がある。そのグラデーションの中で、日常の地続きでありながら非日常感がある、という意味ではラブホと双璧の舞台であるカラオケボックスが、中間の世界として現れる。その枠をいかに踏み越えるかというところにドラマがあり、成長がある。また、舞台装置として、大阪の鄙びた風景が最高に機能している。良い感じにさびれているところが、青春のある一時期を切り取りつつそれ以外の時間の経過も示す。
狂児は実のところすでに完成された大人で、ユーモアを持ちつつ壁を超えてくるが、一方ちょっと怖さもある。魅了的な人物であることは間違いないが、暴力のにおいはする。そのバランスが見事で、力が入り過ぎた聡実には合唱部よりも今必要な大人というのがわかる(厳密には同じ部のハナ先生や中山さんもこの役目があるのだが、おそらくは力不足なのだろう)。あと、合唱部とカラオケの間にある世界に「映画を見る部活」もあるのだけど、ここは若干重複する要素かなと思いつつも、戻りがきかない青春という時間において、それでも無為にすごすことの重要性、あとこれが映画であることの烙印という役割があるのかな。基本的には、才能を持つものがその才能を活かす場として何を選択するか、そしてその選択する根拠は何なのか、という話。その手には一つしか持っていないし、主人公だからといって二つのものを同時にぶんどることはできない。そこは誠実。かつて合唱部に所属していた者としては、ステージに立ったら、まあ面白さに免じて許しつつその点はひとこと言おうと考えていたので、そこは安心した。
笑いで観客の緊張を解しつつテーマを伝えるこの映画の手法がヤクザ的な交渉術を思い起こさせるし。狂児は映画なのかも知れない。
乙郎さん

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