ブタブタ

スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃のブタブタのレビュー・感想・評価

2.5
SWファンにとって長年の謎であった「クローン戦争」について、エピソード4でのオビ=ワンのかつて名パイロットであったルークの父と共に戦ったと言う台詞やルークにライトセイバーを見せて「無粋なブラスターとは違う騎士の時代の優雅な武器だ」等極々僅かな台詞から想像するしかありませんでした。
嘗て栄華を誇った銀河共和国とはどの様な物だったか。
ロシアのロマノフ王朝やフランスのブルボン王朝を宇宙規模にした巨大で純欄豪華な世界であり、膨張し過ぎ腐敗した体制が滅びやがてファシズムに取って代わられる。
パルパティーンはロマノフ王朝末期の怪僧ラスプーチンのイメージでしょうか。
旧三部作が帝国=ナチスを敵とする第二次世界大戦のSF版だった様にクローン戦争とは嘗てのヨーロッパ・ロシア貴族社会の崩壊とファシズムの台頭前夜、第一次世界大戦のSF版になるのではと思っていました。
ルーカスはインタビューで「(新三部作は)CGを使ってデザインは非常に古めかしい物になる」と確か言っていた筈でした。
しかし見せられたのはツルツルピカピカの戦闘機やXウイングやYウイングにはあったSF世界の現用機の様なリアリティには程遠いセンスのないデザインのメカ群。
これはひとえに3流いや4流いや5流デザイナーのダグチャンによる責任が大きいと思います。
第一次世界大戦は当時の最新テクノロジーであった飛行機が戦争に投入され、それ迄の旧態然とした戦争=騎士が1列に並んで戦う様な=が最新兵器の登場により駆逐されて行く戦争でありクローン戦争とは「騎士の時代」の優雅な武器ライトセイバーを持つジェダイ騎士達が「無粋な」最新兵器によって敗れて滅びていく、(古い)騎士VS(最新兵器である)クローン兵士の戦いだと思っていました。

『映画のブログ・スターウォーズと黒澤明』と言う素晴らしいスターウォーズ論を検索して是非とも読んでいただければと思うのですが、SW旧三部作が黒澤映画『隠し砦の三悪人』『椿三十郎』など黒澤映画全盛期のワクワクドキドキする痛快活劇のオマージュ(元ネタ)である事は周知の事実ですが新三部作は黒澤映画後期作品『影武者』『乱』の強い影響下にある事は前記のブログを読む迄意識した事はありませんでした。
レビュー等を読みますと自分の様な旧三部作からのファンは新三部作否定派が多く新三部作から入ったファンはエピソード1についても肯定的な意見が多い様に見受けます。
自分はやはりどうしても旧三部作と比べて見てしまうので、新三部作には足りない要素が多すぎてそこが楽しめない不満な点なのだと思います。

新三部作に足りない物
1 ダースベイダー
2 強い敵
3 主人公の対を成す暗黒面の存在

要するにこの三つは全部ダースベイダーに集約する事が出来るのですが。
ルークに対するベイダーがアナキンには居なかった。
暗黒面のもう1人の主人公。
これについて“もう1人の主人公”になる筈だったキャラクターが新三部作にはちゃんと居ました。
即ち口にするのも幅かられるSW史上いや映画史上最悪最低のキャラクター「ジャージャービンクス」です。

「ジャージャービンクス=道化」
新三部作は輝かしい未来が待っていた筈の才能溢れる若者アナキンが奈落の底まで堕ちていくシェークスピア悲劇であり、当然主人公であり王(暗黒のですが)となるアナキンの傍らには常に道化が居る筈でした。
『リア王』の道化、それを元にした『乱』のピーター演じる狂阿弥、そしてSWではジャージャービンクス。
ジャージャーはルーカスによると『七人の侍』の菊千代と喜劇王バスターキートンを合わせて作られており役立たずで常にしゃべくりまりドタバタ喜劇で観客を笑わせ、菊千代が侍と百姓を結びつけた様に水棲人グンガンとアナキン達を結ぶ役割のキャラクターだった。
しかしご存知の通り余りにも不評で2以降はバッサリと出番をカットされる羽目になる。
この新三部作に於いてアナキンの「悲劇」とそれを相対化する存在として重要だった「道化」の退場によって全体図が大きく狂う結果になってしまったのではと思います。

「じゃあどうすりゃ良かったのか?」
以前読んだSW論で帝国に挑む反乱軍とは本当に正義なのか?と言う文章がありまして、反乱軍のメンバーを見ると貴族・高僧・騎士・高級官僚そしてハン・ソロの様なならず者、其処に市民の姿はない―即ち反乱軍とは共和国時代に甘い汁を吸っていた腐敗した体制の生き残りなのでは?とありました。
エピソード1で軍隊を持たない共和国に代わって立ち上がったのはグンガン族=『七人の侍』に於ける百姓に当たるのですが、これを原住民ではなく別の物にしてしまう。
ジャージャービンクスを土着のエイリアンでなく人間に、成金貴族の馬鹿息子でパドメにちょっかいを出す口だけの男、そして良い所を見せたいが為に本来戦争に参加する事はない「貴族」達を戦争に巻き込む。
平原で行われるドロイド軍対派手な戦闘服とのぼりを立てたクリーチャーに跨る貴族達の軍団。
『乱』で武田騎馬軍団が織田の鉄砲隊に破れた様に言うまでもなくボロクソにやられるもアナキンが母艦を破壊しドロイドは機能停止、貴族軍の勝利、ジャージャービンクスは英雄として祭り上げられる。
本来能無しの役立たずだったこの男がこれを切っ掛けに共和国で重職に付きパドメも我が物にしようとする。
道化でありアナキンの敵であるもう1人の主人公。
平安時代の公家社会が武家の登場により滅んでいった様に共和国も貴族から誕生した武家勢力によって滅びの道を辿る。
こんな感じでしょうか(笑)
それと飽く迄旧三部作と「同じ物」が見たかったファンと常に新しい物に挑戦する実験映画の監督とも言えるルーカスとは相容れなかったのだと思います。
ルーカスには7以降のアイデアもありディズニーにそのアイデアを提示するも却下されてしまったとの事ですが、常に新しい実験作に挑戦するルーカスが作る『エピソード7』そして新々三部作が実現していたらどの様な作品になっていたのか。
『ホドロフスキーのDUNE』と同じく永遠に幻になってしまいましたが。
ブタブタ

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