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フルメタル・ジャケットのtakのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
4.5
80年代後半に外国映画観ていた世代は、ベトナム戦争が描かれた映画をかなりの数観ているに違いない。アメリカンニューシネマと呼ばれた70年代の作品群にもベトナム戦争を背景にしたものはあったが、それらは作家性が強いものだったり、地味に反戦を訴えたものだったり。80年代に入るとヒット作やメジャー作品にもベトナム戦争ものが目立つようになる。そんな中で、あのスタンリー・キューブリックまでもがベトナム戦争映画を撮る!?との報が。驚き半分、期待半分で映画館へ。

いやぁ…すげぇ。期待と予想のはるか上。さすがキューブリック!

映画前半は新兵の訓練を描き、後半は戦場へと舞台を移す。圧巻なのは前半で、若者たちを兵隊へと鍛えあげる様子は、時に勇ましく時に痛々しい。訓練というよりもむしろ思想統制とも受け取れる。「時計じかけのオレンジ」後半を思わせる。教官役のリー・アーメイの口汚い台詞の数々。実際に新兵教育に携わった経験があるそうだ。

冴えない"ほほえみデブ"が次第に目の色を変えていく様子は、危機迫るものがある。厳しい指導を受けて変貌していく登場人物には、どこかのほほんとした第一印象のキャスティングがいい。「愛と青春の旅立ち」のリチャード・ギアにしても、本作のビンセント・ドノフリオにしても、軍隊じゃないけど「セッション」のマイルズ・テラーにしても、追い込まれてだんだん顔つきが変わっていくのが印象的だった。そして本作の微笑みデブは、狂気に支配されて銃口を向ける。

この前半のど迫力と、キューブリックらしい一点透視図法が冴える映像に圧倒されてしまって、この後どうなるのかと映画館の暗闇で心細くなったのを覚えている。

その後半。キューブリックは観客を兵士の一人として戦場を走らせる。主観移動のカットも使われて、その臨場感は劇場鑑賞だからこそ。飛び交う銃声で身体がこわばった。この戦場場面を超える臨場感は、「プライベート・ライアン」までなかった。

映画のクライマックスでは、主人公の小隊が見えない敵に襲われる。ベトナム戦争は、"相手の見えない戦争"だと評されることがある。何のために。本当の敵は。数々の反戦映画が観客に疑問を投げかけてきた。ベトナム戦争映画の代表作「プラトーン」は、アメリカ兵同士の仲間割れや暗闇の銃撃戦で、何と戦っているのかが見えない状況を表現した。キューブリックはクライマックスの戦闘シーンとその皮肉な結末で、戦争の虚しさを象徴的に見せつける。それは決して声高でなく、冷たい印象ですらある。そして、ミッキーマウスマーチのメロディが心に刻まれる。あのメロディ聴くと、この映画の行進場面しかイメージできない時期があったなw

初公開時、熊本市では「エルム街の悪夢3/惨劇の館」と二本立てでした💧
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