こたつむり

見知らぬ乗客のこたつむりのレビュー・感想・評価

見知らぬ乗客(1951年製作の映画)
3.7
♪ 闇夜を裂いて鳴らしている
  灯りを消して帰ってゆく
  愛楽を見る人の元へ また階段を登る

ヒッチコック監督作品の中で五本の指に入る名作!…という謳い文句に誘われて鑑賞しました(ちなみに他の作品は『サイコ』『裏窓』『ダイヤルMを廻せ!』『レベッカ』でした。名作が多いから選ぶのも大変ですね)。

確かに高評価も頷ける出来栄え。
何よりも“軽めの筆致”が新鮮なのです。
コメディとサスペンスは水と油の関係ですけど、比率を間違えなければ融合可能。本作はそれを実証していました。

だから、手に汗握る展開も活きるわけで。
本作の主人公はテニスの選手ということで試合の場面がありますが、そこに事件の行方を重ねるから思わず前のめりなのです(たとえ試合運びが微妙でも)。巧みですよねえ。

あと、名作と謳われる作品ばかりを観てきたからか「主人公は一癖あるゾ」と身構えてしまったのですが(他の作品はアクが強い人たちばかりだから…)本作はモラルを守る善人タイプ。これも新鮮でした。やはり、主人公にクセが無ければ感情を添わせやすいですからね。

それと事件現場が遊園地…というのも印象的。
アナログなアトラクションと白黒でも伝わってくる華やかさが“昭和っぽくて”なんだか懐かしくなる…そんな雰囲気に満ちていたのです。クライマックスの早回しも面白かったですね。

ただ、逆に言えば牧歌的すぎるのが難点。
軽くて冗長な部分を好意的に捉えることが出来れば良いのですが、ひとたび「つまらない」と思ってしまったらリカバリーは難しそうです。そういう意味では“相性”で評価が決まる作品だと思います。

まあ、そんなわけで。
高めにホップするような見事なストレート。
本作のような直球があるから、後年で変化球が活きたのでしょう。確かに、餌付くような気持ち悪さは『サイコ』や『鳥』で満たせば良いのです。
こたつむり

こたつむり