堊

疑惑の影の堊のレビュー・感想・評価

疑惑の影(1942年製作の映画)
4.3
「さっき飲んだコーヒー、へんな味しなかった?」
「え?そうだった?」
「ソーダを入れたんだ。毒なら今頃死んでる」
「全然わかんなかった」
「苦かったでしょ、あれがたぶん死の味だよ。ときどき考えたことがないか?、この世界で俺たちはギリギリで生きているだけなんじゃないかって」






・文字情報(見えるもの)が最大のショックを与える。だから会話はすべて日常会話でしかない(音だけ聞いていても何の話だか全くわからない)
・閉館した図書館に伸びる主人公の影、不安な笑顔にかかる木の葉の影、ライティングがそのまま心情を表している。もちろん、到着する列車の煙は異様に黒い。「悪魔の到着」byヒッチコック。そして存在を表すタバコの煙、ラストの凶器としてのガス…
・ドアの入り口にたつ主人公の顔が見切れてるショットがマジで怖い。黒沢清的ホラー。
・外の音を聞かせないために窓を閉める⇔ドア間の往復。特に最初の家族がテーブルを囲んだ下りはものすごい。とてつもない情報量。
・「faster!faster!」のエコー。オープニングのダンスがサブリミナルのように挿入されることによるドライブ感がすごい(速度いじってんのか?)
・街を歩くだけでとんでもなくエモい。路地裏に一度入ればスクリーン・プロセスなのが大味すぎて惚れる。普通切り替えして合成画面なんてやれるだろうか…
・主観でカメラを見つめるショットが最怖レベル。「主人公=観客」どころかフレーム内で生きていて観客だけをただ見つめているかのように感じさせる恐ろしさがある。
・『狩人の夜』並の狂人描写が最高。

「でも悪夢のほうが本当だったら?
この世界は本当は汚い豚小屋だ。中には豚が住んでいる。
この世は地獄だ。
だけど、目を見開いてみなきゃいけない」
堊