Eike

モンスターズ/地球外生命体のEikeのレビュー・感想・評価

3.5
NASAの探査衛星が地球に帰還する際にメキシコ上空で爆発・墜落。
そして奇妙な「巨大生物」が地上を跋扈し始めた。
アメリカとメキシコの国境地域は「汚染地帯」として軍による隔離政策が進められて行く・・・。

と言う設定自体は前フリで説明されるのみ。
お話はそこから6年後。
カメラマン志望のアンドリューはメ休暇中にキシコでけがをして足止めを食った出版社の社長の娘、サマンサをアメリカに連れ帰る仕事を引き受けます。
国境地域の状況が緊迫の度合いを増す中、二人は陸路でアメリカに戻る方法を模索する羽目になるのだが…。

これはかなりの「珍品」。
このタイトル、設定からすれば恐らく(こういう映画)になるだろうという思い込みが見事に外されました。
ただ、個人的にはその外され方は「期待外れ」ではなく「予想がつかない面白さ」であったことは確か。
実はかなり楽しんで見る事ができました。

ですが当然ながらお怒りになられる方もいらっしゃるでしょう。
見かけで言えば「第9地区」や「スカイライン」、「世界侵略:ロサンゼルス決戦」といった作品と同系列なのだがベクトルはほぼ真逆に向いた作品になってますから。

本作のユニークさはSFモンスター映画のフレームを使いながらその本質は、男と女の「ロード・ムービー」以外の何ものでもない点。
背景も境遇も違う男と女が危険な道行を繰り広げながら心を通わせてゆく、ちょっとこっ恥ずかしくもあり、微笑ましくもある(ザ・青春ロマンス映画)なのだ。
主人公二人のダイアログを含めてほとんどが即興に近い内容で、エキストラもほとんどが現地調達の地元の人たちらしい。
しかも本作はイギリス映画であり、アメリカ映画のようにユーモアでお茶を濁すような事の無い「シリアスな映画」となっていて余計に異色感が強いですね。
低予算の足枷を逆手に取った手法が生み出す独特の空気感が濃厚で、また、中・南米各国でのオールロケの効果も非常によく出ております。

ただ、肝心の「モンスターSFとしてはどうなのか?」と言われると、そこは微妙。
確かに「巨大モンスター」はちゃんと出てきます。でも「なんじゃあれは?」(笑)と言う感じですし、その露出も非常に限定的です。

じゃあ、怪獣SFとしては失敗なのか?
確かに本作の本質は「青春ロードムービー」なのだがモンスターSFのエッセンスの盛り込みかたも実は中々にウマい。
だからその面で意外と「裏切られた」と言う気にはならない。
二人が目にする景色・風景に紛れ込む文明崩壊の予感や異種生命体を巡る奇妙な生態系がミステリアス・グロテスクに描かれていて、ちゃんと「ワンダー」を感じさせてくれました。
特に夜の川のシーンは不気味で怖くってSF・ホラーとしてのセンスを感じました。
監督のギャレス・エドワーズは元来VFX畑の出身で、本作でもほとんどのスペクタクルシーンを自らCGで構築していたようです。
激しく好き嫌いが分かれる作品だと思いますが「真面目な映画」である点を私は気に入りました。

エドワーズ監督、本作後にハリウッド版ゴジラで大作路線に抜擢。そして続くSWシリーズ初の番外編「ローグワン」も大成功を収めております。
それが2016年でしたからそれから早、6年。
期待の新作”True Love”は現在撮影中。
主演はMCUの「エターナルズ」で主役を張ったジェマ・チェンと「テネット」のジョン・デビッド・ワシントン。そして渡辺謙さまも参加。
近未来SFらしいですが内容は極秘ですね。
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