このレビューはネタバレを含みます
アイリーンが刑務所にいる間、実際の親友と交わした7000通もの手紙や徹底されたリサーチによる実話を基にした映画。
小さい頃、アイリーンは特別な誰かになれる、特別な誰かに求めてもらえると信じていた。
ある男に言われた「人生で大事なことは、人を信じて自分を信じること。そうすれば夢は叶う」
こんなありきたりで陳腐な言葉は、なんでも手に入り、学べる環境が当たり前にある私ならば冷めてしまいがち、だけどその言葉を大切に道しるべにしていたアイリーン。道路の隅っこで、転げ落ちそうなぎりぎりのところで、少しの希望がなければ生きてはいけない人だった。
実在のアイリーンが歩いてきた道には、離婚した母親に捨てられ、祖父のレイプと肉体的な虐待があり、祖母はアルコール中毒、兄からもレイプされ、性行為を繰り返し、相手はわからないが13歳で妊娠、14歳で出産、縁を切られた背景がある。
車で生活をし、社会がお金を払ってくれる、価値があると認めてくれる売春婦に就いた。
セルビーのおばや父親は言う、売春婦はろくなもんじゃない。それが世間だ。
売春客はお前のような存在は…と侮辱。それが日常になっていた。
セルビーはいい子だ、そのままで良い、とアイリーンは言う。
親友のトムが言う。選択肢はなかった。俺たちも戦場に借り出され、罪の意識で自殺したものもいる。
私たち大衆が、貧困や、セックスワーカーに対するスティグマに加担してはいないか。与えられた環境がこんなにも違うのに、努力が足りないからだ、努力すれば夢は叶うなどと自己責任の波を作り上げていないか。
そんな問いかけを突きつけられる、素晴らしい人間のドラマでした。
アイリーンは最後の晩餐にフライドチキンとポテトを選んだ。
また殺してしまうから、早く死刑にしてくれと言ったそうだ。
この映画はふつうに生きられなかったアイリーンの怒りに満ち満ちた声が届くように作られている。
幼女をレイプする祖父が一番クズだと思うが、尊厳を踏みにじる男たちに復讐でもしていたのかもしれない。
殺人を許すわけではないが、モンスターとは一体誰のことなのか。
シャーリーズ・セロンが素晴らしい。
判断能力が鈍っているあのかんじ、セルビーに会いにいくときちょっとだけ自分のお気に入りの髪型にして自信を持つあのかんじ、虚勢を張ってビッグマウスのあのかんじ。憎みきれない人間を、連続殺人者として生み出した社会が死刑で殺す。仕方ないでは済ませたくない。
ローラースケート場のカップルタイムで初めてアイリーンがセルビーを愛したときに流れる、エンディング曲でもあるDon't stop believing歌詞がダサいのにこんな刺さることってある?
信じることを止めるな
その気持ちを持ち続けろ
街灯の人々よ