生涯ジェフ・ベックを尊敬し続ける、彼の無二の親友、ジミー・ペイジがジェフのために作曲した「Beck's Bolero」を皮切りに、一流マジシャンの種明かしのように、予測不能でトリッキーなギタープレイが、ピックを持たない彼の手指のアップと共に映し出されていく。3曲目の「Stratus」は、ジャズ・ロックという音楽を世の中に提示し、ジェフの音楽に多大な影響を与えた、ビリー・コブハムの1973年のアルバム「スペクトラム」に収録されている曲のカヴァーで、ここ数年はライヴのセットリストにも必ず入れている。彼のキャリアを考える上でも重要なナンバーだ。そして、スティーヴィー・ワンダー作曲によるド・定番曲「哀しみの恋人たち」における、ジェフのエモーショナルなギターにうっとりしたかと思いきや、インド生まれの新進アーティスト、ニティン・ソーニーの曲をカヴァーした「Nadia 」の、ウニャウニャしたヘンテコなギターの主旋律に驚愕する。この曲はドラムンベース調ながらも、西洋音楽にはない、インド音楽特有の細かくクネクネした主旋律の揺れを、まんまギターで再現するという無謀なことをやってのけ、ロック史上耳にしたことのない、摩訶不思議なギターフレーズを地味に編み出している。この曲のプレイが、個人的には一番ツボだ。また、フリー・ジャズとハード・ロックとロカビリーをごちゃ混ぜにしたような「Space Boogie」は、その難易度の高さゆえか、めったにライヴで演奏されない貴重なナンバーとして、強く印象に残る。さらに、ビートルズの「A Day In The Life 」は、静寂と喧騒の波が交互に押し寄せてきて、実にジェフ・ベックらしい、スケールの大きな曲に生まれ変わっている。
そして終盤、エリック・クラプトンがゲスト参加し、マディ・ウォーターズの「Little Brown Bird」「You Need Love」の2曲をプレイする。二人のギター・レジェンドが、リラックスしながらも火花を散らし合う。同じフェンダー・ストラトキャスターを弾いているとは思えないくらい、仕様やサウンド・アプローチがまったく異なる二人。個人的には、流麗にむせび泣くトーンのクラプトンよりも、あくまでもジャキジャキとトンガったフレーズを連発するジェフのフレーズやトーンのほうが、元来ブルース・マンが持っていたワイルドさやアグレッシヴさに近いものを感じるのだが、どうだろうか。