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僕のピアノコンチェルトの一人旅のレビュー・感想・評価

僕のピアノコンチェルト(2006年製作の映画)
5.0
フレディ・M・ムーラー監督作。

生まれながらの天才少年の苦悩と成長を描いた人間ドラマ。

アカデミー外国語映画賞スイス代表作品に選出された人間ドラマの良作で、主演はピアニストとしての顔を持つテオ・ゲオルギュー、彼の祖父をスイス出身で主にドイツ映画界で活躍したのち、2019年2月に亡くなったばかりの名優:ブルーノ・ガンツが名演しています。

ピアノや数学等さまざまな分野で天賦の才能を発揮している12歳の少年:ヴィトスを主人公にして、一人息子である自分に過度な期待を寄せる両親とのすれ違いや、主人公の唯一の理解者である家具職員の祖父との関わりを経て、やがて自分が本当に求める人生に向かって新たに舵を切り始めてゆくまでの過程をユーモアを交えて活写した“天才少年の苦悩&成長譚”となっています。

生まれながらに天才であるがゆえの少年の孤独や苦悩を描いて、『ボビー・フィッシャーを探して』(93)や『奇跡のシンフォニー』(07)、『天才スピヴェット』(13)に連なる作品ですが、本作の特徴として主人公が才能を発揮するのがピアノに限らず数学や経済(株)、チェス、さらには飛行機操縦など幅広い分野に亘っている点が挙げられます。ピアニストの神童として両親から過度なプレッシャーをかけられてきた主人公の孤独と息苦しさを中心に描写しつつも、憧れの存在である年上の女性に果敢にアタックしたり、天才的発想と並外れた行動力で自分が現在置かれている状況から脱却しようと努めたり、さらには家族の窮地をも持ち前の天才的頭脳を駆使して救い出そうとする―“悩める天才少年の特異な一人行動”がユーモラスに描かれていきます。

天才(=いつか大成しなければならない)という暗黙の枠組みに我が子を無意識の内に閉じ込めてしまう両親の心情や、それとは対照的に主人公の人生を優しく見守り続ける祖父の想いを一身に受け止め、迷い悩みながら、自分が自分自身で決めた進むべき未来に向かって文字通り大空高く飛翔してゆく様子に鑑賞後晴れやかな余韻に浸らせてくれる感動作で、主人公の天才少年を演じた俳優兼ピアニスト:テオ・ゲオルギューが魅せるクライマックスの演奏シーンは圧巻であります。
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