てつこてつ

ポストマン・ブルースのてつこてつのレビュー・感想・評価

ポストマン・ブルース(1997年製作の映画)
3.8
昭和レトロともひと味違う、90年代のバブル社会崩壊後の日本で多感な時代を過ごした身としては色々と懐かしい風景で刺さったなあ。

SABU・・確かに時代の寵児だった時期もあったな。自分の中では、もっと尖った作風のイメージがあったんだけど、本作を見る限り、オフビートなコメディと心優しい男たちの寓話orファンタジーというテイスト。

堤真一演じる主人公が郵便配達人という設定上、当時はSNSはもちろん、携帯電話もギリ普及し始めた時代なので、手紙を送る・・という行為に若い世代の人は違和感を覚えるかもしれないけど、自分にはとにかく懐かしい。

終盤に向かうにつれ何かに取り憑かれたように使命を果たそうとする堤真一の演技力はもちろん、友人のヤクザ役の清水宏、トレンチコートにサングラスというベタ過ぎる装いの“殺し屋ジョー”を演じた大杉漣、この三人キャラクターとは対照的なくそ真面目な警察陣営の寺島進や平泉成と、とにかく芝居が上手い役者さんが揃っているので、独特な作風ながらもキチンと成立している作品。

ジャズのBGMの中で繰り広げられる「日本殺し屋大勝」の大会シーンとか、なかなか絶妙。そこに登場する金髪カツラにサングラス姿の女性殺し屋は、自分も大好きなウォン・カーウァイの「恋する惑星」でブリジッド・リンが演じたキャラクターそのままじゃん、と思いきや役名も“ブリジッド・ラン”。SABU監督からのオマージュで嬉しい。

ヒロイン役の遠山景織子の透明感溢れる存在感も素晴らしい。顔立ちが同じ時代に大活躍した常磐貴子と被っている部分もあるので、その後跳ねなかったのかなと思うと残念。

作品に一番親近感を覚えたのは、終盤の自転車疾走シーンからエンディングに向かうシークエンスのロケ地。どこか既視感があるなあと思いきや、今も建っているUR住宅群と鉄鋼団地の背景、クライマックスの境川に架かる橋から自分が今住んでいる千葉県浦安市だと確信出来たこと。ミーハーで恥ずかしいが、やっぱり、馴染みがあるロケ地が登場するとテンション上がる。

70年代のアメリカンニューシネマを彷彿させる唐突なエンディングの後にも救いがある描写があって不思議と心温まる。
てつこてつ

てつこてつ