Sari

奇跡の海のSariのネタバレレビュー・内容・結末

奇跡の海(1996年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

デンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー監督作。
『イディオッツ』(1998)、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)と並ぶ『黄金の心』3部作の最初の作品で、同年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。

トリアー監督独特の残酷さの描き方で、ダンサー・イン・ザ・ダークを公開当時に鑑賞した時の後味が蘇ってきた…。

非常に宗教的で、同じ北欧スウェーデンの偉大なる巨匠ベルイマン監督『処女の泉』のような、信仰を重んじる排他的な村に暮らす純真無垢な女性が、協会や村の男たち、結婚した最愛の夫によって運命が狂わされ、悲劇を迎えるも、最後に一筋の光がさすあり得ないラストだが…。神の存在、祈り、信仰と救済。同じくデンマークの巨匠カール・テオドア・ドライヤー監督『奇跡』も思い出させるが、この悪趣味なラブ・ストーリーはトリアー監督にしか描けないものである。

ヒロインのベスを演じたエミリー・ワトソンが、デビューとは思えない演技力と存在感によって見事に演じ切っている。
信仰心の強い彼女が、創造上の神と一人二役のように対話する場面が印象深い。(当初はヘレナ・ボナム=カーターが演じるはずだったが、過激なヌードシーンに難色を示し役を辞退。)

脇を固めるトリアー監督常連俳優の中、ベスの姉役であるカトリン・カートリッジの目で訴えかけるような演技が大変素晴らしい。

ヴィム・ヴェンダースの撮影監督ロビー・ミューラーによる手持ちカメラのドキュメンタリー的な撮影方法が取られており、退色したフィルムのような映像も相まって、冒頭の結婚式の場面からホームビデオを見ているよう。陰鬱な寒村の風景とカメラワークの不安定さが、後の不吉な展開を予感させる。

結婚式に化粧室でウエディングドレスのまま夫となったばかりのヤンに処女を捧げる冒頭は、『メランコリア』で同様のシーンがセルフ・オマージュのように描かれている。

章立てに区切られ、チャプターごとに独特の色彩の海や山の絵画の映像が現れ、60年代〜70年代ロックの名曲群が流れる(エルトン・ジョン、ディープ・パープル、T-レックス、デヴィッド・ボウイなど)。特にエルトン・ジョンのGoodbye Yellow Brick Roadは、この映画の象徴として強く残っている。
当時としては斬新な演出だったのかも知れないが、インターバル的に残酷な物語を中和しているかのよう。

急激なヤンの回復から、意表を突いたファンタジー演出(空で鐘が鳴る)というラストの演出の軽率さには呆気に取られたが、ラース監督の確信犯的な狙いなのだろう。


1970年代、スコットランド。厳格な教会の影響が色濃い田舎の村に住むベスは、他所からきた労働者のヤンと結婚し愛し合う2人だったが、ヤンは油田の出稼ぎに行かなくてはならず、なかなか一緒に過ごすことができない。信仰心の篤いベスは、神様にヤンが戻ってくるよう祈るが...。

Elton John-Goodbye Yellow Brick Road
https://youtu.be/RZ3Bb4UsXhU

2022/10/21 DVD
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