こんなひどい話があってたまるか。ベスの人生にはただただ”善意”しかない。「神」は人間の弱いところをこんなにも残酷に嘲ってくる。
展開だけでいうとエミリー・ワトソンの凄まじい演技以外は静かでともすれば単調にうつるが、章の切り替えが非常に巧みで、女は口を閉ざし男は海か油田に出るしかない、不毛の地であるスコットランドの情景がストーリーが進むにつれひどく寒々しくうつる。本筋とはまったく関係ないが、迫害された者に石を投げる子供にでぶっちょがキャスティングされているのは全世界共通なのだな(「砂の器」)、と妙に感心してしまった。
ヤンの側の語りが圧倒的に少ないのだけど、ラストの海へ埋葬するシーンですべて伝わる気もした。さいごに鐘が鳴り響くのはヤンの、あるいはベスの夢かもしれない。
本作を初めて見たのは大学生だか院生だかのころ、たしか渋谷のユーロスペースで、当時お世話になっていた教授に勧められて以来なので、おそらく20年ぶりにもなるのではないか。当時はまだピチピチのJDだったのでベスのあほったれぶりと長老どものくそったれぶりにイライラしたシーンも多かったが、すっかりおばさんになってしまった今見ると、ヤンのいびきに笑いながら耳を塞ぐベスは可愛いし、終盤は涙をこらえきれなかった。