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エレニの旅のkojikojiのレビュー・感想・評価

エレニの旅(2004年製作の映画)
4.0
No.1650 2004年フランス、ギリシャ、イタリア映画
監督: テオ・アンゲロプロス

 私はギリシャといえば、古代と2010年代のギリシャ危機ぐらいしか思い浮かばない。オスマントルコから独立後の苦悩については全く知識がない。
 それに加えて恥ずかしい話だが、この監督も、この作品も知らなかった。
(監督作品は過去数本clipしていたのだが消している😅)
そんな中、フォロイーさんのレビューを読んでこの映画を観たくなった。

 ギリシャの歴史を知っていたら、もっと高い評価になると思う。

 難解な作品だった。少女エレニが村から逃げ出し、旅芸人として彷徨い続け、家族は離散し、悲劇を迎えるという大筋のストーリーはわかるものの、どんな環境なのかがわからない。どうしてそうなるのかよくわからない。もちろん、この時代のギリシャの状況も勉強しないで、わかるはずがないのだが。

 しかし、なるほど、予想以上に堂々たる作品だった。ここまで自信に満ち溢れた作品にはなかなか巡りあえない。
 映画を撮り続けて、撮りたいものが結実し、環境が完全に整った時だけしかこんな作品は生まれないだろう。そんな気がした。
 才能と環境とタイミングに恵まれたほんの一部の監督しか、こんな作品を残すことはできないに違いない。

 ロシア革命によってオデッサから追われ、難民となったギリシャ人の一群。その中の一人の少女エレニはオデッサで両親を失った孤児。彼女は一行を率いるリーダー格の男スピロスに拾われ、家族の一員として育てられる。少女エレニはスピロスの息子アレクシスと恋に落ち、妊娠する。エレニは、スピロスの妻ダナエの計らいで、秘かに出産し、生まれた双子を裕福な夫婦の養女に出す。
ところが、皮肉なことにスピロスに結婚を迫られる。エレニは恋人アレクシスとともに逃げ出す。そして楽団のリーダーニコスたちともに旅芸(音楽)人として生きることを選ぶのだが…

※ オデッサは、ウクライナ南部、ドニエストル河口から北に約30km、黒海に面した港湾都市。オデッサ州の州庁所在地で、首都キーウから約443km南に位置する

 映画タイトルが流れる前のエピローグ。
 ロシア革命で追われた難民が全員ほぼ真っ黒の服装で川向こうから歩いてくる。長々と描かれるこのシーンを観るだけで、この監督がただ者ではないと思う。
 そして映画の始まり、馬車が右から左の方へ走っている。それを遠いアングルで、しかも長回しで追いかける。するとその村の全貌が次第に見えてくる。子供達、大人達の日常が素晴らしい構図で描かれる。まるで絵巻を見るような感じだ。間違いなく隅から隅まで演出されているに違いない絵画のような画面。その映像の素晴らしさ。
後半、この村を丸ごと水没させるのには驚いた。黒澤監督みたいな監督なんだろう。

このスタイルが全編を通して貫かれる。映像美に酔う。それもあってか、どちらかというと、エレニ達を遠くから眺めるような感じで物語が展開するので、エレニとか、恋人アレクシスのアップが少なく、その内面に入りずらい気はした。ただ、彼等の20年近くの歴史を辿れば、エレニの悲しい人生が次第に脳裏に焼き付けられて、自分が彼女と共に時間を旅した感覚に陥る。
愛する人が誰もいない
彼女のこの最後の悲しみの叫びは心を打たれる。

この後どうなるのか、これは続編「エレニの帰郷」は絶対に観なければならない。^_^
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