シズヲ

イルカの日のシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

イルカの日(1973年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ジョルジュ・ドルリューの詩情溢れるテーマ曲など良い感じの雰囲気はあるけど、よくよく振り替えるとけっこう奇妙な映画。教育によって言語能力を獲得したイルカは『オルカ』の復讐鬼シャチとは違った方向性で擬人化のし過ぎなんだけど、それはそうとアイデアそのものは面白い(欧米人のイルカへの肩入れっぷりは相変わらず印象的)。科学者夫妻との関係性も疑似親子っぽいので家族ドラマ的要素もあるものの、科学者→イルカの感情描写はあくまで淡白なのでそこまで深く掘り下げられている感じでもない。その割にサスペンス展開に移行するのも後半に差し掛かってから漸くなので、前半の空気は何処と無くゆったりとしている。

作中のイルカは人間の対比的な存在として置かれる“無垢な妖精“で、本作はイルカを利用する身勝手な人間を通じて描かれる教訓的な御伽噺めいてる。「我々こそがイルカを真似るべきだった」という科学者の台詞は人間の愚かさへの自戒として端的。しかし“人間に翻弄されるイルカの悲哀”の極致として最終的に“イルカを利用した大統領暗殺計画”へと飛ぶ展開は流石に斜め上でビビる(それもラストギリギリで明かされる)。確かに軍用イルカとかいるけどそこまで行くか。この60~70年代的陰謀論を思わせる荒唐無稽なアイデアには如何にもな時代性を感じてしまう。暗殺計画を食い止めて逆に悪役の船を吹っ飛ばす場面はちょっと笑った。

そんなこんな言いつつも、“何だかんだで無垢なイルカが可愛らしい”という点で本作は憎めない。辿々しく英語を喋るイルカは何とも言えぬ背徳感があって最初は複雑な気持ちになるけど、赤ちゃんっぽい声も相俟って見ているうちに段々愛嬌を感じてくるようになる。CGの無い時代としてはイルカ自身の“演技”も頑張っていて面白いし、水中でのイルカの遊泳を捉えた映像の美しさも良い。人間社会に翻弄された末のビターなラストも印象深い。「人間は悪い。二度と人間に近づいてはいけない」等のやりとりで切なくなる。
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