サッカー好きの上野

真空地帯のサッカー好きの上野のレビュー・感想・評価

真空地帯(1952年製作の映画)
4.2
野間宏の同名小説が原作。
音楽には団伊玖磨が参加している。

【あらすじ】
かつて「枚方火薬庫」で上官の財布を盗んだとして「陸軍刑務所」に収監されていた、木谷一等兵が刑期を終え「中部第百二部隊」に配属となった。
四年兵であったかれは、一年兵と違いこき使われることはなかったが、
最初は病院帰りということで経歴を隠したが、
やはり好機の眼で見られることになった。
そのためほとんどものとは口も聞かなった。

ただ親しくしている曾田三年兵はは木谷には事件の詳細を述べた。
財布は故意に盗んだものではなく、偶然拾ったもの。
良くしていた山海楼の娼妓、花枝に送った手紙が見つかり、その中で上官に対する悪口をさんざん書いたため反軍思想の持ち主として、軍法会議において刑が確定した。

やがてこの「中部第百二部隊」からも野戦行きの噂が流れてくるのだが・・・

【評論】
野間宏だけでなく山本監督の兵士体験も色濃く反映している作品。
戦場ではなく、内地の駐屯地を部隊にしたこの作品は
よくある戦場の悲惨な場面を描くのではなく、先輩の後輩に対する理不尽な扱いや
上官による物資の横流しなど不正、
その罪のなし付け合いに伴う上官の派閥争い、
それに巻き込まれる形で罪を着せられた木谷など、
違う形での兵隊の人間性が破壊されていくさまを描いている。

曾田三年兵がこうした状況を「真空地帯」と呼んだ。

この曾田三年兵が部隊の中で数少ない良識派として現れる。
後輩の面倒見のいいよき先輩兵として、できることはしているが、
それでも限界がある。

木谷はまわりの悪い影響で壊れていく。

曾田は木谷のような兵士をたくさん見ているはずで、
自分はそれを乗り越えつつ、また自分を抑えつつ、
なんとか自分の小さな信念を失わない姿に、
この映画の数少ない希望が託されている。