サッカー好きの上野

海街diaryのサッカー好きの上野のネタバレレビュー・内容・結末

海街diary(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

広瀬すず「私の・・・、私のお母さんが、奥さんがいる人を好きになってしまったのがいけないんです、ごめんなさい」

綾瀬はるか「何を言うの?あなたが誤る必要なんかないのよ!むしろあなたに色んな物を背負わせてしまって、ごめんない」

吉田秋生の同名の漫画を映画化した作品で、カンヌ国際映画祭にも出品された。
詳細についてはあらすじのあとに書きます

【あらすじ】
(なおこのあらすじでは、基本的に役名に変えて、役者名を書いていきます。恐らく映画を見ていない人にとってはそのほうが面影を思い浮かべやすいと思ったからです。なのでカッコ内を役名とします)

鎌倉の江ノ島電鉄『極楽寺』駅の近くにある古い日本家屋に住む、長女・綾瀬はるか(香田幸)、次女・長澤まさみ(香田佳乃)、三女・夏帆(香田千佳)。
彼女たちのもとに山形に住む実父が亡くなったと連絡が入った。

当初は次女と三女だけが参加する予定だったが、仕事の都合で見送った長女も駆けつけ。
3人そろって葬儀に参加した。

そして実父の現在の妻中村優子(浅野陽子)とその二人子供である姉弟と初めて顔を合わせた。

姉、広瀬すず(浅野すず)は中村優子から見れば養女、弟は中村の連れ子だった。
つまり実父は3度の婚姻歴があり、すずは2番め妻の子供だった。それは3人も初めて知る事実だった。

3姉妹が帰ろうとするその時、すずが追いかけてきた。
それは3姉妹と父が写っている写真を渡すためであった。

懐かしい写真を見て3人で盛り上がる姿。
それ寂しそうに見つめるすず。

列車に乗り込んでいよいよお別れというところで、
綾瀬が声をかける「鎌倉に来ない?」
「ゆっくり考えて」と長澤。
「私・・・、私鎌倉に行きます」と即答するすず。

しばらくして鎌倉にやってきたすず。
実はサッカーをしていたことを知った夏帆は、
自分が務めているスポーツ用品店スポーツマックスのつながりで地元のサッカークラブ湘南オクトパスの入団を勧めた。

テストを合格し入団、程なくフォワードとして実力を発揮。チーム主力に。
入団祝いを地元で評判の風吹ジュン(二ノ宮さち子)が経営する海猫食堂でみんなに祝福された。
一方転校した中学校でもすぐに友達ができ着実に鎌倉に溶け込んでいった。

長女綾瀬はるかは鎌倉市立総合病院で看護師として勤務。
彼女の恋人は同病院に勤務する堤真一(椎名和也)

堤は実父葬儀の時、いろいろ仕事で配慮して綾瀬の心パートナーだった。

たまに彼が住むマンションに行き手料理などを振る舞った。
ある日彼のマンションで精神的病気で実家に帰っている彼の妻の様子が深刻であるため見舞いに行くことを告げられた。

いらだちを隠せない綾瀬。

そんな中、異動の内示があった。
異動先はターミナルケア、すなわち終末医療であった。
治療を目的をする医療機関にあって、その可能性のない人たちを相手にするターミナルケア。
綾瀬は仕事でも大きな課題を抱えることになる。
と同時に新たな領域へのチャレンジも意義があるものなのかなとふと考えた。

信用金庫で窓口勤務をしている次女長澤まさみのストレスの解消は男と酒であった。
恋愛と泥酔を繰り返しては失敗、でもまた次の男と飲みに行く生活。
一途な性格の綾瀬といつも姉妹喧嘩が耐えず、
あまりの激しい姉同士の喧嘩にすずが心配しても夏帆は「大丈夫いつものことだから」と言われてしまう。

ある日長澤の窓口に定期預金の解約を申し出てきた今の彼氏。
借金の返済のためであった。
そしてその日の昼休み、その彼氏から長澤のスマホに留守電「君に似合うような男じゃなくてごめん」

また繰り返してしまった長澤はまた酒に頼るしかなかった。

その長澤に転機が訪れた。
係長補佐昇進し、長澤は外回りを係長とともにするようになった。

ところがその仕事の中で海猫食堂の資金繰りに関する相談があった。
風吹ジュンの実弟が自分の借金の解消のために突然、
遺産相続の主張を始め、そのために海猫食堂を売却を迫った。

売却を逃れるためにかねてから信用金庫に相談していた風吹に、
資金計画を提案した長澤にたいして「もういいんです」という風吹。
「こんどあなたのお姉さんが勤めているターミナルケアにお世話になることになりました」
絶句する長澤。

会社に戻る途中思わず「神様が許せない」と上司にぶちまける。
長澤の上司、加瀬亮(坂下美海)は
「せめて亡くなる二ノ宮さん(風吹)の純粋な資産に関しては権利があるから、遺言を作成することをお勧めしようと思う」と提案。
「そうすれば二ノ宮さんの最低限の意思をなんとか残せることになると思う」

自分の仕事が誰のためになる。
そのことに初めて気づいた長澤は猛勉強するようになる。

その時であった。大船に住む大叔母、樹木希林(菊池史代)から音沙汰のなかった3姉妹の実母、大竹しのぶ(佐々木都)が祖母の七回忌に参加するために札幌から鎌倉に来るという連絡だった。
同居していた頃から家事も家の切り盛りもろくにしなかった大竹に憎しみさえ覚えていた当時から綾瀬とは喧嘩が絶えなかった。
そのことに長澤と夏帆は心穏やかだけでなかった。
しかもすずにも「私は行く資格があるのでしょうか」と言わせてしまう。

悩みと愚痴を聞いてもらうために綾瀬は堤に電話する。
「夫婦と違って親子は切ろうと思っても簡単切れないもんだよ」とまるで大竹をかばうようなことをいわれ
「あら、なかにはなかなか切ろうと思っても切れない夫婦もいるのにね」とつい言ってしまう。
「ごめん・・・なさい」

日に日に重くなる綾瀬の矛盾。

波乱含みの七回忌の当日は鎌倉の実家に戻ってから現実となった。
突然大竹は「この家を処分しようと思う」といいだす。
それに激怒した綾瀬。激しい口調で貶し合う二人。

居合わせた樹木希林は綾瀬に「やめなさい!仮にもあなたのお母さんよ!」
そして大竹には「あなたも、単なる男に逃げられるそれだけの女だったのよ!」
「はいこれでおしまい!!」

ピリピリしている綾瀬との料理をつくることになったすず。
綾瀬「これはね私が唯一母から教わった料理。なぜシーフードだと思う。それはね肉と違って煮こまなくていいから。
料理が嫌いな母らしいわ」

もう絶えられなかったすず。


広瀬すず「私の・・・、私のお母さんが、奥さんがいる人を好きになってしまったのがいけないんです、ごめんなさい」

綾瀬はるか「何を言うの?あなたが誤る必要なんかないのよ!むしろあなたにいろんな物を背負わせてしまって、ごめんない」



追い打ちをかけるように堤から次のような決心を伝えられた。
「こんどアメリカに小児がんの勉強に行こうと思う、一緒に来てくれないか」
さすがの綾瀬も思考不能に。

そのことを長澤と夏帆に相談した綾瀬。
当然散々生活態度を叱られ続けた長澤は大激怒、そして大口論。
二階で聞いていたすずはますます自分の存在価値を疑うのであった。

ところすずのオクトパスでの活躍は目覚ましいものに。
フォワードとしての実力もそうであるが、ツートップ組む前田旺志郎(尾崎風太)とのコンビネーションは抜群であった。
そしてあらぬ噂が。

2年生進級時のクラス替えの発表の時、すずと前田がまた同じクラスになったことがわかった時
「お前ら付き合ってんだって」と級友にはやし立てられれ否定するも、
「ええ、これみんなに言っちゃったよ」と級友。
そこで初めて何かを意識する二人。

花火大会の帰り道江ノ電・極楽寺駅のベンチで
「わたし鎌倉にいていいのかな」と前田に漏らす、すず。
しばらくためらったあと、
「あのさ、俺って男ばかりの3兄弟の一番下だけど、親がまた男かってがっかりしちゃってさ、だから写真が一番少ないんだー」
意外な回答に無言のすず。
「これってお前が言ってることと関係ないのかな?」
「ううん、全然関係ある」
自宅以外に居場所がみつかったすず。

風吹ジュンの葬儀。
特に長澤は感極まり、泣くばかり。
その帰り、実父の親友で風吹の心のパートナーであったリリー・フランキー(福田仙一)からこんなエピソードが。
桜が好きだった風吹、命が立たれることを知ってもリリーと花見をした。そして
「自分が死ぬことがわっかていても、美しい物を美しいと思えることがよかった」と言っていたことを教えてくれた。
そしてすずをよんで、抱えている亡き父とのことを言えないことを察していたのでこう言った。
「お父さんのことで何か言いいたいことがあったら、私のところに来てこっそり言いなさい」

相模湾の海岸を綾瀬と堤は二人で歩く。
そして堤にどうするかきかれ、
アメリカには同行しないとを告げるとともに、
「わたし、ターミナルケアにも、意味があることがわかったんです。だからそれを続けたいんです」

三女、夏帆が生まれた直後に家を出てしまった父なので夏帆にはほとんど父の記憶がなかった。
だからこの一連の出来事にも蚊帳の外であった。
彼女は釣りの趣味くらいでストレスはないけど充実感もななかった。

ある日すずといるときこんなことを言ってしまった。
「すずのほうがきっと私よりいっぱいお父さんの思い出があるんだろうね」

でももうすずは決めてた。父との思い出を隠さないことを。
「私ね、お父さんによく釣りに連れて行ってもらったの」
満面の笑みを浮かべる夏帆。
「すず!もっとたくさんお父さんのことおしえてね」
「はい」

綾瀬が夜勤明けで、たまたま昼間に家にいたとき来客があった。

母だった。

大竹「どうしたの、具合でも悪いの」
綾瀬「いや、今日は夜勤明けだから。それよりお母さんは?」
大竹「この前、あなたとあんなことがあったから、渡しそびれたものがあって」
そう言ってそれぞれの娘におみやげが。

そして素早く家を出ようとする大竹に
綾瀬「ねえ、ちょっと上がらない」
大竹「飛行機の時間もあるし、お母さんのお墓参りもしたいから」
と、そそくさと玄関を出てしまう大竹。
綾瀬「ねえ待って、私も一緒にお墓に行く」

参道を歩く二人。
綾瀬「ねえ、なんであの時、突然あんなことをいったの」
大竹「私にとってはあの家はなんの自由もない辛いものだったの。でもあなた達にとっては特別なもなんだって大船のおばさんにきつく言われたわ」

そして墓前で
大竹「いたらない娘でごめんなさい」と報告する。

親としてではなく一人の女性として、
母を見つめる綾瀬の心には、もうつまらないわだかまりはなかった。

極楽寺の駅前での別れ際、
大竹「そういえばまだ梅酒を作っているんだって?大船に聞いたわ」
綾瀬が祖母から受けつだ梅酒作りは母へのアンチテーゼだった。

でも綾瀬ももうこだわりはない。
綾瀬「ちょっとここで待ってて、持ってくるから」
そして祖母が作った最後の梅酒を母にすべてあげた。

綾瀬「また来てね」
大竹「私のところにも、みんなで来てね」

和解、初めての和解。
堤の言ったことは本当だった。

【評論】
論じたいことがたくさんありすぎて困る映画です。
あらすじと言いながら全筋になってしまいました。

でもこの全筋を書いても伝わらないものがるからあえてネタバレにもならないと思っています。
この映画の映像美、それが伝わらないと思ったからあえて書きました。

あらすじを読んでもらえれば、脚本が素晴らしいのは伝わりますよね(たぶん)。
心に残るセリフがあって、映画館で観ましたから、メモをとれないのに、
こんなに覚えているなんてすごいと思います。

でもこの作品の映像美、本当はここ大切なんです。

鎌倉、日本家屋。
それだけで映画が好きな人なら絶対、小津安二郎とか成瀬巳喜男とか意識しますよね。
僕もそれかなり映像的には意識して(というより排除できない)観ました。

でもそれら露リスペクトしながら、それを引きずること無く、映像が本当に美しかった。
上記二人もそうだけど僕的にはタルコフスキーの『サクリファイス』を思い出してまった。

特にラスト近くの丘から観る海の場面では、美しい緑と蒼い海とのコントラストが残りました。
色彩感覚が優れていないとこうした映像は撮れないとですね。

カメラワークそしてフレームは常にゆっくり横に動く。
ゆっくり、ゆっくり。
現場ではカメラを載せたレールの上を本当に細かい指示を出して早すぎないように気をつけていたはず。

音声。
きっと映画館だかから気づいたのだけど。
画面に写っていない人のセリフが入ってくる。
ぼくは常々この感覚が邦画にないことをいつも残念に思っていたのですが、
この映画はそれがしっかり「録音」されている。
だから口論の時もみんながみんないろんなことを言うけど、
それが本当の口論順番に発現する口論なんねないからね。
それをすべて録音した感じ。

音楽。
いくら単独として素晴らしい音楽を獲得しても
入れるタイミングと音量を間違えればすべて台無しになる。
この音楽に関してはどこで何が出たか全く記憶がない。
だからいい。
音楽が映画を飛び越えてしまったら音楽は必要ない。
映画音楽の理想を心地よさだと仮に定義すれば
それは記憶に残らないほどの心地よさが一番だと思う。
不愉快な音楽ほど記憶に残るから。

以上がテクニカルなこと。

でもやはりこの作品は脚本がすべて。
そして素晴らしい役者さんの演技力がすべて。

4人姉妹と風吹ジュン、大竹しのぶ、樹木希林。
ある意味日本の女優さんの実力を魅せつけられました。
とくに後の3人の役柄が印象的で、
風吹さんのそれなりに歳を重ねて、そして生涯独身の彼女に密かに憧れてる人がいるみんなの永遠のマドンナなのに、あっけなく亡くなってしまうこと。
大竹しのぶさんの歳を重ねても、そこから何も学んでいない全く子供のように自己中心的な役を演じたこと。
樹木希林さんの長老だからこそ湧き出てくるすべて知り尽くした女性をとして、他の女性をたしなめる力を演じたこと。
適役であり迫演ですね。

脚本についてはあらすじで書いたけど決め台詞が多いこと!
でも現実を描きながら現実を忘れさせるなら、そうであってほしい。

素敵な女優さんたちと素晴らしい映像、音楽、風景。
映画はそうした夢を与えてくれる源泉であったじゃないですか。
だからこの映画はみんなに観てほしい。

心から。