蒼井ことり

ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路の蒼井ことりのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

忘備録

夢町座さんという小さな映画館で鑑賞。
モーツァルトにナンネルという姉がいたことは全然知らなかった。
ウィーン旅行した時も特に情報が入ってこなかったから有名じゃないのかなあ??それともザルツブルクを訪れたら違ったのかも。

モーツァルト一家は、音楽の才気溢れる子供たち(姉弟)を売りして、欧州各国を演奏しながら回っていた。お父さんがスパルタで、若干子供を食い物にしているようで毒親っぽい…。
当時の音楽家って全然セレブじゃなくてかなり底辺の暮らしぶり。馬車での冬の欧州移動はしんどそう。ナンネルは音楽やってても少しも楽しくなさそう。

ザルツブルク出身っぽいけど、モーツァルト一家の会話はドイツ語じゃなくてフランス語なのかぁ〜と思いながら見ていた。
当時の豪華な衣装や装飾、モーツァルト役の子役のバイオリン演奏シーン(当て振り??)は結構見応えがあった。
ナンネル役の女優さんは14、5歳には見えない大人顔。主役の姉が音楽家として活躍したのが10代までだから、弟・モーツァルト(5歳年下)が終始おチビのままというのは珍しい。

それにしても、かわいそうなナンネル!
両思いのフランスの王子(皇太子?)との恋は実らず、鬱々と作曲に勤しむも、当時女性は作曲を禁止されて自由がきかない。やがて彼女の音楽への情熱は失せていく。
父の元で音楽と歌しか学べず、
「私は普通と違うの」
「(料理もできない)こんな私と誰が結婚するの?」
と嘆くナンネルは、当時貴重であったろう楽譜を暖炉に投げ入れ燃やしてしまう。
音楽をやめて「普通の私」を選んだ瞬間だったと思う。歴史にも名を残すことなく。

(あー、もったいないなぁ!)と思った。料理ができなくたって、普通じゃなくたって、音楽の才能があるナンネルは十分魅力的なのに。
コツコツ努力して続けていた絵画を、美大受験失敗で辞めてしまい、その後なかなかやる気も才気もインスピレーションも取り戻せないまま歳をとってしまった自分と重ねてみると、ナンネルにはそのまま音楽を続けて欲しかった。

そして、その後のナンネルの悲しいエピローグが…。
音楽を辞めた後も父の元で過ごし、32歳で父の勧めで50歳の3人の子持ち男の元に嫁ぐ。晩年は貧困で盲目。弟の作品を守りながら78歳で死去。

悲しい…。
10代まで魅力や才能溢れていても、晩年はどうなるかなんてわからないんだなぁ。彼女がまさかこんな人生になるなんて。

アート系を目指している人が見ると、ちょっと落ち込んでしまう映画。
女性が見ると、やはりちょっと悲しくなってしまう映画。
ストーリーや演出は、よく言えばまったり、悪く言えばメリハリのないぼんやりした印象。主役・ナンネルの存在も、テーマも地味。クラシック音楽が好きな人はいいのかもしれない。好みが分かれそう。

学びもあった。
こんなに特殊な能力、タレント性があっても、昔の人はとにかく貧乏。絶望し疲れながらも、おごることなく生きるしかない。
ほとんどの人々が無名で貧しい暮らしのまま死んでいったんだな。
歴史に名を残せる人や、お金持ちになれる人なんてごくわずか。
私はそれを忘れて勘違いしていた。
現代はお金持ちになるチャンスがあるかもしれない。でも楽して稼ぐとか、うまい話にはウラがあるし、不器用な自分には向いてない。
できることを精一杯やって、今あるものを使って、今いる場所で咲こうと思った。
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