こたつむり

灼熱の魂のこたつむりのレビュー・感想・評価

灼熱の魂(2010年製作の映画)
3.9
運命に翻弄された女性の物語。
そして、同じように観ている側も翻弄してくる作品。秀作。

特に場面転換の手法については。
慣れるまでは辛いものがありました。前触れもなく、現代と過去の場面が繋がっているのですね。しかも、“母親の人生を子供が辿る”物語ですから、“年代は違っても場所は同じ”だったりするのです。観ている側を前のめりにする手法だとしても、やはり混乱するのは否めません。

また、過去と現代が同一の視点だから。
劇中の登場人物たちと、観ている側の情報に差が出来るのですね。そして、そのギャップも混乱を招く要素となるのです。

更には、物語中盤まで主軸となる内戦も。
劇中での説明は皆無に等しいため、状況を把握することに頭を費やす必要があります。レバノンの地名も宗教観も日本では馴染みが薄いものですからね。事前に勉強をしておく必要がある、とまでは言いませんが、何となくでも知っている方が抵抗は少ないでしょう。

そして、物語自体が暴れ馬のように。
苛烈ですからね。気を抜いていると、作品から振り落とされてしまうかもしれません。しかしながら、それらの困難はあくまでも演出の一環。きっちりと手綱を掴んでいれば、終盤20分の展開に“天を仰ぐような”気持ちになると思います。

そう。
あの、空気を吸う音と。
悲鳴が混じった、あの瞬間。
まさしく足の裏から焼かれる様な痛みを感じる、あの瞬間。あれが最も苛烈な場面であり、そして本作の肝であります。それを最大限に味わうためには“思考停止”も一種のテクニックです。先読み厳禁ですよ。

まあ、そんなわけで。
邦題にあるように“灼熱”の物語です。
その熱さは喉を焼き尽くし、呼吸すら困難にしてしまうかもしれません。しかしながら、魂が火傷を負っても、その“灼熱”を咀嚼することが本作の醍醐味であります。

勿論、咀嚼し続けても。
飲み込めないかもしれません。しかしながら、それは“純粋な数学”や人生と同じ。目の前にぶら下がった“答え”を求めて走り続けるのが醍醐味なのです。だから、 “彼女の最後の行為”が正解かどうか、僕は咀嚼し続けたいと思います。

それにしても。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品を観たのは本作で二作目ですが。良いよ。良いよ。臓腑を掴まれて握りつぶされるような感覚が濃厚で。最高ですな。他も観よう。
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