くりふ

イリュージョニストのくりふのレビュー・感想・評価

イリュージョニスト(2010年製作の映画)
3.0
【静謐な饒舌】

アマプラ見放題にて。何となく見逃していたが、公開はもう10年以上も前だったのか。

予備知識なく見始め、グロテスクな女性歌手が出てきて『ベルヴィル・ランデブー』の監督だと気づく。元ネタがジャック・タチの脚本だとは、後からそういやそうだったなーと。

美術はホント素晴らしいですね。超絶巧いバンド・デシネが動き出したが如く。

動きも、緻密さが素晴らしい。が、それが物語を強める力にはなっていないことが残念。

50年代、とうに時代遅れとなった老奇術師の放浪記。

エンタメビジネスはビジネスだから勝敗がつきまとう。幻想という意のillusionからみれば、より刺激的なものが求められる。

奇術師という意のイリュージョニスト、メリエスは、映画が出てきた時点で乗り換えた。長続きはしなかったが、歴史には残った。当時は、映画が最高に刺激的だったからでしょう。

本作の主人公たるイリュージョニストは、ずっと時代が進んでもうとっくに、ロックバンドにもTVにも負けている。…が、気にしない。心のままに、いわば惰性で生きている。

だから自然と、強い刺激が未達な僻地に向かわないと、仕事にならない。

…まあ、当たり前だよなあという導入。すでに物語としては退屈。そんな彼が、ある場所で純朴な少女に出会うと…。

そこから、別の意味の退屈にシフトしました。

何とも古臭い、男性視点の価値観という。

この少女は、男が“程よく困らせてほしい欲望”を叶えるためのイリュージョンなんですね。

田舎娘なら、厳しい現実を知っているのだから、あんなにふわふわしないでしょう。甘やかされて育った都会っ子みたいじゃん。

で、イリュージョンだから、どこに行き誰と出会おうとも、彼女は自身の物語を紡げない。

そして惰性の老主人公は、そんな彼女をどうにもできず、自分は惰性を続けるしかない。

この物語からは、その程度のものしか受け取れませんでした。だから、中身がないのにくどい長話を、延々と聞かされている気分にもなります。

イリュージョンとは何ぞや?を振り返る、ちょっといい機会にはなりましたけれど。

また、繰り返しますが、ビジュアルの豊かさは凄まじいです。

<2023.8.20記>
くりふ

くりふ