りっく

英国王のスピーチのりっくのレビュー・感想・評価

英国王のスピーチ(2010年製作の映画)
4.2
助演というのは2つのパターンがあると思う。1つは主役を食ってしまうような圧倒的な存在感を放つ者。そしてもう1つは、あくまでも主役の引き立て役に徹する者。どちらとも優れたバイプレイヤーのみが為せる業なのだが、本作の脇役たちは明らかに後者だろう。もちろん主演のファースは素晴らしいが、彼を陰で支え、励まし、成長させるボナム=カーターとラッシュの距離感が絶妙だ。この3人のアンサンブルが、本作の1番の魅力であると言っても過言ではない。

物語も英国王室という、歴史と伝統のある格調高い世界を描いているにもかかわらず、全く肩肘張ったような作りにはなっていない。それはウィットに富んだユーモラスな作りを心がけた演出の妙でもあるが、それ以上にジョージ6世を公的(public)な存在としてではなく、あくまでも私的(private)な存在として描いた点にある。たとえ国王であっても、人前に出れば緊張し、過去のトラウマを引きずっており、頻繁に自己嫌悪に陥ってしまう。家族のことで悩んだかと思えば、プラモデルを見て目を輝かせる。そう、たとえ一国の王になろうとも、彼も観ている自分たちと同じ“人間”なのだ。

本作はこの“人間”がよく描けている。癇癪持ちで子供のようにさえ見える国王を、時に妻として、また時には聖母のような温かさで包み込むボナム=カーター。そして、医者としてではなく“友人”として、かしこまり過ぎず、かと言って出しゃばり過ぎないラッシュの立ち位置の見事さ。そんな2人の愛情と友情に心が解きほぐされ、ラストの一世一代のスピーチに臨む国王を、いつの間にか応援してしまう自分がいる。

戦時中という時代や、王室という伝統は完全に背景に過ぎない。あくまでも一貫して“人間”に焦点を当て続けたこと。それが本作の最大の成功の要因である。
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