一人旅

誘う女の一人旅のレビュー・感想・評価

誘う女(1995年製作の映画)
4.0
ガス・ヴァン・サント監督作。

幼い頃からテレビスターになるという野望を抱いて生きてきた女の狂気を描いた、実話を元にしたサスペンス。

ニコール・キッドマンが自身の野望を実現させるためなら躊躇なく邪魔者を排除する冷酷な女・スザーンを好演。今までニコール・キッドマンの演技を見て特別上手いと感じたことはなかったが、本作の演技は間違いなく絶品。華やか&清楚な見た目とは裏腹に、心の中はドス黒さで満ち溢れた悪女を演じている。スザーンのビビッドな衣装も見どころで、ワンカット毎に衣装が変わるシーンは特におしゃれだ。

物語はスザーンの関係者たちの回想というかたちで進行していく。ジャンル的にはサスペンスではあるが、予想外にコメディタッチ。また、『マイ・プライベート・アイダホ』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『小説家を見つけたら』『ミルク』といった数々の傑作・秀作を撮ったガス・ヴァン・サント監督による独特の演出は不思議な魅力がある。電気店にずらっと陳列されたテレビのように画面が複数に分割されたり、スザーンの義姉が池に張った氷の上を意味深な表情で滑走するシーンのセンスはさすが。

スザーンの狂気に焦点を当てた作品ではあるが、その行動力と向上心はある意味見習うべきものがある。とは言え、彼女の心の奥底に根付いているのは凄まじいほどの自己顕示欲だ。弱小テレビ局に自身を必死で売り込み、テレビ業界の大御所的存在に対しては魅惑的な肉体を使ってアピールする(夫がいるのに...)。
子どもを作ろうという夫からの提案に対して、“妊娠は出世に不利”との理由で即却下。さらに、夫婦二人三脚でレストラン経営しようという提案に対しても、“テレビに映らなければまるで意味がない”と考える。だったら離婚してしまえばいい、なんて思えるが、“離婚すると財産が夫のものになってしまう”から離婚もしたくない。だとすれば...“夫を殺してしまえばいい”というとんでもない結論にたどり着く。

女を知らない初心な高校生を大人の女の色気を駆使して思いのままにコントロールし、夫を殺害させるために利用する。スザーンに翻弄される高校生を演じたホアキン・フェニックス(若い!)のクセのある演技も抜群で、スザーンを盲目的に愛するあまり次第に理性を失っていく姿に、若者らしい破滅性と危うさを感じさせる。
一人旅

一人旅