Kuuta

グラン・トリノのKuutaのレビュー・感想・評価

グラン・トリノ(2008年製作の映画)
4.4
監督としてのキャリアを積むごとに、ストーリー運びがシンプルに、手際良くなっているイーストウッド。白人が死んでアジア人が生まれる冒頭から軽やかな演出が満載。2時間夢中で見ていられた。

例えば言葉も文化も違うのに噛み合ったり、噛み合わなかったりする一つ一つがアメリカ的で面白い。人種をネタにしていたが、病院では自分の名前を間違えられる。床屋のレッスンが直後の面接で役立ち、金網を介した懺悔は二度行われる。芝生を綺麗にするコワルスキーと、畑を耕すタオの対比。高低差を使った主従関係。西部劇なラスト。孤独なグラン・トリノが画面奥に消えるエンドロール、イーストウッドの「息子」が歌うメインテーマが流れる中、色んな“国籍”の車が同じ道を走っていく…などなど。

こうした遊びを散りばめた上で、今作がさらに特別なのは、シンプルな構造の中にイーストウッドのキャリアや米国の現状といったテーマを入れ込める形になっているからだ。

過去はセリフでしか描かれていないのに、コワルスキーの苦しみが理解できるのは、演じているのがダーティーハリーだから、ということに尽きる。この映画の懐の深さは、各人のイーストウッドへの理解度や思い入れに比例すると言える。許されざる者でも同じ手法を使っていたものの、演出に磨きがかかっているので、誰が見ても面白い映画になっているのは間違い無いが。

軽やかな作劇は監督として、その内に秘めた重いテーマは役者として。イーストウッドの二つの側面が噛み合っており、彼にしか撮れない映画だと思う。88点。
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