三四郎

たそがれの維納(ウィーン)の三四郎のレビュー・感想・評価

4.8
豪華絢爛な最後の世紀末ウィーン…その華やかなりし過去の栄光を綺麗に綺麗に映像に収め遺した!
それが、この『たそがれの維納』だろう。
もう冒頭シーンから洗練された雰囲気が漂い、優雅で気品がある。色ごとの噂がまわりまわる感じもまた良い!
この優美さ、この甘美さ、溜息が出るほど恍惚とする紫水晶のような映画。

ベルリン・フンボルト大学留学時代に偶然鑑賞したが、その時は当然字幕も何もついていなかった。しかし、なんとも格調高い純文学の香りがし、この映画に酔いしれた。ベルリンやミュンヘンでは描けないウィーンゆえの美しさと気高さと艶やかさがある最高の映画だ。

原題は、“Maskerade“だが、仮面舞踏会/仮装/変装/まやかし、色々な意味がある。それを当時、この映画を輸入した東和商事の筈見恒夫は『たそがれの維納』と名付けた。まさに名訳タイトルだ。この映画を深く理解しているからこそ、このようなセンスの良い素敵なタイトルを付けられたのだろう。1930年代の日本人の映画を観る目と教養の深さに脱帽せずにはいられない。

ドゥア嬢がハイデネクの絵を指し、「あんな情景は経験しないと絶対に描けないわ」と言い、色男ハイデネクの人格を信用できないと言う。このシーンのやり取りも、藝術の都ウィーンだからこそ似合う。ハイデネクが描いたというあの絵。ある男性がドレス姿ののけぞり逃れようとする貴婦人の胸に顔をうずめ乱暴に抱こうとする…不倫のような危険な香りがするが、エロチックさと恥じらいがあり、これまたウィーンらしくて良い。

伊達男ハイデネクを演じるアドルフ・ヴォールブリュック(後にナチスを嫌いドイツを出て英国でアントン・ウォルブルックに改名)がまた粋で飄々としてカッコいい!!燕尾服に、帽子の斜めの被り方に、あの貴族のような髭、そしてパイプ煙草…何もかもに憧れる!!
いつも左胸ポケットにBonbonを入れており、女性と険悪なムードに陥った際に差し出すのがまたなんとも甘美だ。
当時、「ドイツ映画界で最も美しい男」と言われ、1作品につき破格のギャラを受け取っていたようだが、うなずける。

過去にハイデネクと関係のあった貴婦人のアニータは、ハイデネクが純情素朴で美しくもない小娘と結婚しようとしていることに嫉妬し、誰にも奪われたくないと、煙草入れ兼ライター兼ピストルで、パーンッとハイデネクを撃ってしまうわけだが…、このピストル型ライターが欲しい!笑

ドイツ映画にはないオーストリア映画のソフィスティケイティッドなところが良い。ヴィリ・フォルスト監督の映画をもっともっと観てみたい。
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