Kuuta

ハズバンズのKuutaのレビュー・感想・評価

ハズバンズ(1970年製作の映画)
4.1
飲み屋のおばちゃんのくだりキッツイ…。IMDbによると、この場面の彼女は撮影されていると知らず、演技ではなくて本当に自分の歌が何度も批判されていると思ったらしい。倫理にもとるレベルで人を傷つけることで映画を「良く」しており、無批判には受け入れがたい作品だ。内容も支離滅裂。

ただ、心はきっちり動かされてしまった。これだからカサヴェテスは厄介だ。

親友の死をきっかけに、人生の不安を感じた中年男3人が、葬式から家に帰らないで酒を飲み、女と遊び、適当に喚く。

ハラスメント全開の前時代的なおっさんではあるのだが、この人たちと自分の醜悪さはどこか地続きだと感じていた。好き勝手生きたいのに一人になるのは怖くて堪らなくて、酔っ払って解放感を味わうが、人の気持ちを蔑ろにし、すぐまた自己嫌悪に陥る。怖いから誤魔化して笑うしかない。
「ちょっと、あの、女の人を探してまして…」とカジノで手当たり次第に声をかけるが、歯のないばあちゃんに手を掴まれて逃げ出す(ピーターフォークの表情も手も映さず、ばあちゃんの顔とセリフで状況を示すのが笑える)。

ナンパして良い感じだったはずの女の人は、翌朝には理由もなく消えていて、別の人とまた一から妙ちくりんな会話を始め、また同じような感情の起伏を繰り返している。あー虚しいでも分かると、終盤は泣きそうになりながら見ていた。

コミュニケーションのチューニングや、人との距離感がバグっている。「お、少しは合ったかな?」と思った瞬間に自分の方が萎えてしまったり、相手の感情を害する事を口にして、やっちまったなと思う。気まずさと最悪の気分のループ。飲み屋のトイレで吐いてボーッとするオッサンの長回しなんて誰が見たいんだ。だけど、何にも解決しないで現実に帰るだけなのに、見終わると少し自由になれた気もする。

撮影は役者の表情を最優先しており、編集も単調。ただ、例えばホテルにナンパした3人を連れ込む場面は、全員の室内での配置を考えた上で長回しをしている。したたかに枠組みを用意しているからこそ、予定調和を超えた演技にぶっ飛ばされる。

英国の最後のシーンでベンギャザラが歌っている曲。
Dancing in the dark till the tune ends,
We're dancing in the dark and it soon ends,
We're waltzing in the wonder of why we're here,
Time hurries by, we're here and gone;

Looking for the light of a new love,
To brighten up the night, I have you love,
And we can face the music together,
Dancing in the dark.
Kuuta

Kuuta