田中宗一郎

木枯し紋次郎 関わりござんせんの田中宗一郎のレビュー・感想・評価

3.8
中島貞夫/菅原文太版『木枯し紋次郎』の続編。世の中がどうなろうと「関わりござんせん」、出来れば社会の片隅で一人静かに死んでいきたい。というアティチュードの紋次郎が否応なく浮世の争いごとに巻き込まれ、仕方なく自分が関わることでさらなる悲劇を引き起こす。という大筋は前作と同様。

ただ今作の脚本の軸は、紋次郎の出生の秘密と、その鍵を握る、13歳の時に女郎として売られた生き別れの姉=おみつ/市原悦子との関わり。前作での浮世との関わりがすべて行きずりであったことを思えば、この血縁と出世との関わりという設定がゆえに、作品全体に「人生」や「業」といった余計な湿り気を与えていて、中島貞夫が雇われ仕事感満載でやっつけただろう前作の圧倒的なドライさには劣る。殺陣についても前作ほどの衝撃はない。しかし大傑作。

カメラ位置低め、頭部が切れた構図から、固定かカメラが引いたり寄ったりしながら撮った、スクリーンの中を何人ものキャラクターが移動するショットはどれも目が離せない。無意味なクローズショットの連続に辟易させられた『最後のジェダイ』の記憶がまだ真新しいせいか、ときおり的確に配置される菅原文太の顔のクローズショットに何度も度肝を抜かれる。画面後ろが漆黒で、菅原文太の頰が光ってる。それにあの目力。特に横顔のショット、凄かった〜。

前作同様、土砂降りの雨のシーンも多いが、横殴りの風を起こして空中に巻き上がった砂埃でスクリーン全体が白く濁った画面が今作では印象的。それまでずっと真っ赤な紅を頰に下品に塗りたくられ、一度も正面から顔を撮ってもらえなかった市原悦子/おみつを、彼女の弱さ/醜さがもっとも露わになるシーンで初めて、砂埃が立ちこめた淡い乳白色のスクリーンのど真ん中で美しく撮る。という演出があまりにも残酷。

唯一ナイーブな義侠心の持ち主であり、観客の共感の対象人物として描かれる田中邦衛の演技も良かった。もう既に『北の国から』の田中邦衛が完成してました。紋次郎の後ろ姿を引きでとらえた映画最後のショットは、前作最後のショットのあまりに唐突で、乾ききった演出が衝撃的すぎて、少し見劣りがしてしまう。特に紋次郎が切り捨てた相手の最後の言葉が木霊するという演出はちょっとトゥー・マッチ。にしても大傑作。むふー、興奮収まらず。
田中宗一郎

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