一人旅

ストレンジ・デイズ/1999年12月31日の一人旅のレビュー・感想・評価

5.0
キャスリン・ビグロー監督作。

他人の体験を五感で追体験できる違法ソフトを取り扱う密売人のレニーが、元恋人・フェイスの友人・アリシアが何者かに殺害されたことをきっかけに、連続的に発生する殺人事件に巻き込まれていく姿を描いたSFサスペンスアクション大作。

西暦2000年を間近に控えた近未来のロサンゼルスの狂乱的で終末感の充満した世界観がタイトル通り“ストレンジ”な作品。市街地では車が炎上していたり、民衆と警察隊が衝突しそうになったりと不穏なムードが漂う。そうした何が起きてもおかしくない状態のロサンゼルスで発生する殺人事件。知人の女を殺された主人公・レニーは、元恋人のフェイスを守るため、友人の女・メイスと元警官の探偵・マックスと協力して犯人の捜査を開始する...。

ポイントはやはり普通のサスペンスにSF要素を絡めていること。他人の体験を追体験できる“スクイッド”と呼ばれるソフトが事件の謎を解くカギとしての役割を果たす。昆虫のような奇妙なかたちをした装置を頭部に装着すると、現実世界から一瞬で究極の仮想現実の世界へと吹っ飛ぶ。仮想現実の映像は現実世界の映像とは異なりPOV(主観映像)で映し出されるため臨場感抜群。強盗が店を襲撃し逃亡を図る映像や、殺人犯が被害者を惨殺するまでの過程を捉えた映像は刺激的だ。

また、『ハートブルー』『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』といった男臭い作品を撮ったビグロー監督だけあって、アクションはお手の物。暴力警官との激しいカーチェイスや、無数の群衆が埋めつくす繁華街で繰り広げられるクライマックスのアクションは映像的に圧巻の迫力だ。

主人公のレニーを演じたレイフ・ファインズや、メイス役のアンジェラ・バセット、探偵・マックス役のトム・サイズモア、元恋人・フェイス役のジュリエット・ルイスなどキャストも魅力的。

SF色の濃いサスペンスアクションだが、差別主義の白人警官による黒人殺害が一連の事件の発端になっている点が妙に現実とリンクしている。レニーと子持ちのシングルマザー、メイスの微妙な距離感とその結末や、過去の甘い記憶にしがみついて生きるレニーの過去との決別と新たな愛の模索、事件の背後に潜む意外な黒幕の存在といったエッセンスを盛り込みながら、2時間半という長尺をエンディングまでスピーディに突っ走る。キャスリン・ビグローの演出とジェームズ・キャメロンの脚本が見事に融合した、隠れた秀作だ。
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