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ウンベルトDの盆栽のレビュー・感想・評価

ウンベルトD(1952年製作の映画)
4.1
孤独と希望の詩的リアリズム


 ヴィットリオ・デ・シーカ監督による本作は、戦後イタリアの社会的現実を鋭く映し出したネオレアリズモの極致と言える作品。チェーザレ・ザヴァッティーニの脚本は、貧困と孤独にあえぐ老年の姿を丹念に描写し、観る者の心を深く揺さぶります。

 主人公は、ローマに住む年金生活者のウンベルト・ドメニコ・フェラーリ。彼は、長年勤め上げた公務員の仕事を退職し、わずかな年金で細々と暮らしています。物語は、彼が家賃の支払いに苦しみながら、唯一の友である小犬フリッケと共に生き抜こうとする日々にフォーカスを当てています。家主の追い立てや健康の悪化に直面しながらも、ウンベルトが失意の中で見出す人間の尊厳と希望を紡いでいます。

 映画の核心にあるのは、戦後イタリアの経済的困窮とそれに伴う社会的孤立。ウンベルトの姿は、高齢者が直面する孤独と貧困の象徴であり、彼の苦境は、個人の問題を超えて社会全体の問題として描かれています。デ・シーカは、ウンベルトの生活をリアルかつ詩情豊かに描くことで、観客に戦後の厳しい現実を鋭く提示します。

 本作は、ネオレアリズモの美学を体現する作品でもあります。デ・シーカは、非職業俳優のカルロ・バッティスティを主演に起用し、彼の素朴な演技が映画に一層の真実味を与えています。彼の演技は、彼自身の人生経験と重なる部分が多く、その自然な表現がキャラクターのリアリティを高めています。

また、映画はロケーション撮影を多用し、ローマの街並みや市井の風景をありのままに映し出しています。これにより、観客は物語の中に引き込まれ、ウンベルトの孤独と苦しみを身近に感じることができます。

 ウンベルトとフリッケの関係は、映画の感情的な核となっています。犬という存在は、彼にとって唯一の慰めであり、生きる意欲の源です。この絆は、人間の根源的な孤独を癒すものとして描かれ、観る者に深い感動を与えます。さらに、家政婦マリア(マリア・ピア・カジリオ)との微妙な関係も、彼の孤独を際立たせる一方で、人間の暖かさと共感を感じさせます。

 映画のクライマックスでは、『靴みがき』『自転車泥棒』とは一味違う余韻に浸ってしまいます。デ・シーカの演出は、過度な感傷を排し、静かなリアリズムで観客の心に○○を与える。これがあまりにも美しすぎるのだよ。

 総括して本作は、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の卓越した演出と、チェーザレ・ザヴァッティーニの深遠な脚本が見事に融合した、ネオレアリズモの真髄を体現する作品。戦後イタリアの現実を直視しつつ、人間の尊厳と希望を描いたこの映画は、観る者に強い印象と深い感動を与えます。ウンベルトの物語を通じて、デ・シーカは、映画が持つ力を余すところなく示し、映画史に残る不朽の名作を創り上げたことでしょう。

2024.6.18 初鑑賞
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