アゴ

月に囚われた男のアゴのネタバレレビュー・内容・結末

月に囚われた男(2009年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

久しぶりに見た。なんて良い映画だろう。
主演のサム・ロックウェルは、本当に見事に精神と肉体が弱っていくサムと、まだ地球から来て間もない(と本人は思っている)野心的でアクティブなサム2を演じ分けている。台詞や行動だけではなく、何かを考えている沈黙した表情も素晴らしい。好き。もうめっちゃ好き。
少し古臭くて愛らしさを感じるガーティや基地外の映像も良い。胸が締め付けられるような美しく優しい、なのにどこか冷たいテーマ曲も、ピアノが主となった劇伴音楽もたまらない。
ストーリーにおけるキーポイントである、彼らがクローンだと気付く瞬間が訪れるのは意外にも早い。この映画をすすめる時に難しい、どこまで話すか、というところだが、案外ここまで話しても良いのかもしれない。それから先の、サムたちの戦い、僅かな救い、大きな希望が胸を打つ。トリックを知っていても、十分に映画的魅力は喪われていないからだ。
SFスリラーというジャンルで紹介され、確かにその要素が主ではあるのだが、そればかりではない。
たった3年でどのくらい人は変われるのか。それも、妻子もあるような成人男性が、だ。
客観的に自分を見るという経験は、なかなか無いことだ。SF的で、実現は難しい方法ではあるが、主人公が自分の態度に触れ、地球に残してきたパートナーがどう思っていたか考えるのは容易いだろう。
クローンの存在についてはまだあり得ない、と言った方が現実的だが、自分のツイッターやSNSでの発言を学習させたbotと会話することは、近い将来に叶う気がする。
そのbotを、初めから気が合う楽しいやつ、と思える人は、あまり居ないのでは。
エンディング後、クローンのサムたちは勝利を勝ち取れたのだろうか。
オリジナルがなぜ自分の記憶とボディを売ったのか。クローンのサムたちを見る限り、短気なマッチョ的思想はあったにしても、そう悪人とも思えない。
私はテスが数年前に亡くなっていたということから、彼女の病気を治療するために、金が必要だったのではないかと思う。それは、数年しか治療を受けられない程度の金額で、それでもオリジナルのサムにとってはその瞬間には必要な金額だった。
裁判になった際に、オリジナルがクローンのサムたちと対峙すれば、おそらく証言をしてくれるのではないか。私はそう考えてしまう。

ともかく良い映画だ!
こんな孤独で優しいSF映画が増えてほしい。
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