月うさぎ

最強のふたりの月うさぎのレビュー・感想・評価

最強のふたり(2011年製作の映画)
3.9
新しい人生が開ける出会いというものがある。本来、接点ゼロなはずの人間同士が、触れ合うことで起こる奇跡的な変化。
この映画は実話をベースにしているそうだ。

フランス語の原題は「Intouchables(アントゥシャーブル)」触れることができない人や物事。ああ、英語だとUntouchableね。でもこの映画は無法なギャングの話ではない。
フィリップは大富豪で貴族的な世界の住人。クラシックや絵画などの芸術を愛し理解する一方車やパラグライダーなどのワイルドな趣味嗜好も持つロマンチスト。
一方のドリスは有色人種の移民で貧しい暮らしをし、犯罪歴もある。学もないし口の利き方もなってない、下層階級の典型。現在無職。就職口が見つかる希望もない。

こんな2人が出会ったのは偶然か運命か?
フィリップは事故で首から下が全く動かない麻痺状態になっていた。食事も着替えも排泄さえ自分でできない。
社会的強者であった自分が肉体的には最弱な存在になってしまったという思いはどれだけ自分を苦しめるだろうか?プライドがあればある程辛い。金があるから人は使えるし、周りの人間も地位のある人として丁重に扱う。実際には何も虐げられてはいないのだが、憐れみや過度の気遣いは彼の心を苛む。そして、怒りっぽく、人に当たるといった行為を繰り返していた。
そんなわがままな王様に全く敬意も払わず同情も思いやりも示さない失礼な男を、なんの気まぐれか、雇うことに。
遠慮されない事に新鮮な気持ちになり、対等な人間として扱われた実感を得たのだ。

人を人間以下に見なすことは差別だが、腫物に触るように気を使われるのも疎外であることには変わりなかった。
つまり、いずれも疎外された孤独感を抱えている同士だったかもしれない。

ドリス役は映画ではオマール・シーさんという黒人の俳優ですが、実際はアラブ系のアブデルさんという方だそうだ。
オマール・シーの目の澄んでいること!
大きな笑み。
非常に魅力的。
フィリップ役のフランソワ・クリュゼさんも、首から上だけの演技って難しいでしょうに、本当に豊かに演じておられて、本物にしか見えない。

安全なワゴンではなく、愛車だったマセラティ クアトロポルテ(だそうです)の助手席でかっ飛んで、タバコの回し飲みをする。そんな事が嬉しくて仕方なかったり、侮辱ともイジメとも取れるドリスの態度やおふざけに、いじられて喜んでいるへんな金持ち。に、ちゃんと見えますよ!

「彼は私に同情していない。そこがいいんだ」
憐れみ程上から目線なものはないってこと。

障害も人種差別も乗り越えられる。
気のおけない相棒が側にいてくれれば。
月うさぎ

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