月うさぎ

ユージュアル・サスペクツの月うさぎのレビュー・感想・評価

ユージュアル・サスペクツ(1995年製作の映画)
3.6
きっとあなたも騙される。それはあなたに心があるからだ。

でっちあげの容疑で警察にしょっぴかれた5人の容疑者。その出会いを機に犯罪計画が動き始め、やがて更に大きなヤマに巻き込まれていく。
カリフォルニア州・サンペドロの港に停泊する船が襲撃され爆発炎上し、27人もの死人が出た事件を追う警察は、その事件の生き残りの2人を取り調べるが、浮かんだ黒幕はカイザー・ソゼと呼ばれる謎の男だった。

カイザー・ソゼ…いかにも作り物めいた嘘くさい名前。実在しているのかどうかも怪しい。果たして事件は解明されるのか?カイザー・ソゼの正体は?
というクライム・スリラーなのですが。
告白しましょう。私も騙されました。が「それ、変だとは思っていたんですよね」という、薄々気づく部分のあるタイプの騙され方で、いわゆる意表をつくどんでん返しではありません。

最初に船の事件。すぐにその6週間前の面通しでの出会いに戻る。そこから現在の取り調べの場面に戻り、事件に至る時系列の再現シーンと交互に展開していく。
この流れが率直に言ってとてもわかりにくい。
5人の関係性や事件に至る理由がわからなすぎて私は最初の部分だけでも4〜5回観てます。
騙そうという意図と伏線を張りつつ隠したいという作り手側の計画が、ちょっと待って?!と引っ掛かるせいです。とにかく伏線がいっぱいありすぎなんですよ〜💦
なのに一番気になったのはライターとタバコ入れだったりして😅
(もちろん意味があった事は判明しました。タバコ入れはトルコ製だったとのことです)

すごく面白かった!という映画というよりは、色々練った脚本だなとか、演技が上手いよな〜とか、後から感心しちゃうタイプの映画です。
だってこれ、叙述ミステリーなんですよ。

事件そのものは言うなれば生き残りのキントの証言を「再現ドラマ」にして見せている形なんですね。彼の見たり知ったりしたもの以外はこの映像には含まれない訳で、これが100%ではない。別の真相があるはず。そこまではわかってるんですよ、こっちだって。

小説に「信頼できない語り手」という技法があります。語り手(作者)が嘘を語る場合もあれば、本当の事をあえて言い尽くさないという場合もあるという禁じ手みたいな手法。
一人称の小説は特に、この技法には要注意。
しかし映画となると…

我々はいかに目で見た事をそのまま信じる生き物なのか!
こうあってほしいという自分の希望的推測を事実と誤認するものなのか!
無意識のうちに自分の中にある差別や思い上がりもある。例えば障害者に対する「憐れみ」だってそうかもしれない。
映画ってそういう思い込みを正してくれるありがたいものなんだなと、またしても勉強になりました。
そう。現実世界においても、知ったつもりになっているストーリーや人物像がフェイクである可能性を常に念頭に置く必要があるんだって事です。

役者の演技にも騙されちゃいますが、こればかりは不可抗力😅

忘備録用メモ
以下に記す。
ネタバレあり。ご注意下さい。







●カイザー・ソゼ
カイザーはドイツ語で帝王。「ソゼ」はトルコ語で「お喋り」の意味。

●ヴァーバル・キント
「ヴァーバル」は英語で「(行動を伴わない)言葉だけの / 口先だけの」という意味。
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