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ミツバチのささやきのryoのネタバレレビュー・内容・結末

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

事前情報としてフランコ独裁政権時に作られたということは知っていたが、これを知らないと「少し奇妙でキレイな映画だなぁ」で終わっていたかもしれない。
逆に言えば「検閲をかいくぐるため」のオモテ部分だけですでに凄い。
荒野に立つ姉妹。凄まじい蒸気を立て迫力と共にやってくる機関車。音楽も印象的だった。

養蜂業を営む父は、狭い場所に閉じ込められ、搾取され、それでも何も考えず奴隷のように生きるミツバチを愚かに思う。独裁政権に付き従う愚かな国民がミツバチに(結構明確に)例えられる。
姉は主人公の少女にちょっかいを出したりはするものの少女からも慕われ、仲の良い姉妹。しかし同時に『怪物』は廃墟にいると嘘を言い、脱走兵と出会うきっかけとなり、結果、少女は『仮想敵(脱走兵)』を排除する社会の姿を目の当たりにすることになる。
蜂の巣の形をした窓からやって来た者(見えないポピュリズムの象徴?)に襲われたというテイで姉は死んだフリのいたずらをする。それ以降、仲の良かった姉の存在は希薄になり少女との会話はなくなっていく。脱走兵の件で少女がショックを受けるシーンで姉は笑っている。少女は家出をし、世界と相容れないフランケンシュタインの怪物と自分を重ね合わせる。
ラスト、珍しく姉の方から少女に声をかける。少女は応えない(あるいは聞こえない)。何故か姉のベッドにマットレスが無くなっている。独裁政権が終わり、やってくる新時代に姉の居場所は無いということだろうか。それともある時点から姉はいなかったということだろうか。
本作の原題は直訳すると「蜂の巣の精霊」だという。姉のことを指しているように感じた。中盤、母は精霊の善悪について「良い子には良い精霊、悪い子には悪い精霊」と言う。脱走兵を助けるという純粋な善良さは『蜂の巣の精霊』にとっては悪い事だったのかもしれない。

分断され、切れ切れの家族の中で自分だけ『ミツバチ』になれなかった少女(怪物にシンパシーを感じることから『ならなかった』ではなく『なれなかった』のだと思う)。望洋とした孤独が素敵。綺麗で切ない作品。良いです。
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