三樹夫

善き人のためのソナタの三樹夫のレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
3.9
1984年の東独で、反体制の疑いのある劇作家の監視の任を受けた主人公が、盗聴していくうちに劇作家に共鳴していくという話。主人公は東独のKGBみたいな組織シュタージの大尉なのだが、真面目さゆえの邪心なき邪悪な存在というか、東側のネトウヨみたいな奴。国家は常に正しい、国家に歯向かう奴は許せんと、日々尋問と監視の毎日。国家の無謬性を信じてるような奴は手に負えんというか、何かの対象に対する無謬性を妄信する奴は迷惑以外の何者でもないなというのが冒頭の尋問と劇場でのシーン。尋問とか言ってるが実質拷問な上に、主人公は正しいことをしていると思っているのでいとも簡単に残酷になる、だって正しいことをしていると思っているので。劇場の席に着いたらやることは望遠鏡取り出して監視という、お前それ以外やることないんかと、のっけから不快感が大躍進。社会主義のシステムを利用して私腹を肥やそうという連中がいる中、主人公は真面目一徹というか、あくまで国家のため社会主義のためにやっているという真面目という名の狂気の主人公。
しかし劇作家の部屋を盗聴してからだんだん共鳴していく。ただこの共鳴していくのが、この時にシンパ感じるようになったんだなと想像できるシーンはあるのだが、過程が結構すっ飛ばされていて、あれいつ共感したの?と映画観てて思うところがある。ぶっちゃけ劇作家サイドに肩入れしだしたのは、劇作家と同棲している女優好きになったからだろ。はっきり言えば主人公は弱男。友達いなくて、結婚もしておらず、黒魔術師みたいなイカつい娼婦を家に呼んで、ことが済んでも寂しさからもうちょっと居てほしいと頼むような孤独な男。必死こいて劇作家盗聴しているのも、弱男がリア充ひがんで足引っ張ろうとしているスパイト行動に見える。それが芸術に感化されちゃって劇作家の部屋から本盗んで読みだし、ファンになった女優の側に肩入れするという、途中まではとんでもないド陰惨な終わり方するのではとハラハラして観ていたが、弱男光の道へという方向へ進んで、感動すらある終わり方をして驚いた。

東独の追い出し部屋やばい。あんなの絶対発狂する。不謹慎ジョークバカもしっかり放り込まれてて笑った。作中映る車がいかにも東側というデザインで、東独の雰囲気を味わえる映画。シュタージが集めた個人情報資料は、本人か家族なら本当に閲覧できるのね。
タイプライターマニア職員のボードを使ってまでのタイプライター解説は笑った。
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