このレビューはネタバレを含みます
アスガー・ファルハディ監督の出世作。
カスピ海へと旅行に来た友人家族ご一行。主人公セピデーに誘われ、別枠で参加した幼稚園の先生エリが失踪する。
🪁🌊🚺
ずっと観たかった作品。
現代イラン社会が抱える問題を炙り出す、アスガー・ファルハディ監督による極上の心理サスペンス。小さな嘘や秘密が積み重なり、どんどん泥沼にハマっていく。ドキュメンタリーのようなリアリティがあり、常に緊張感がある。観客が"声なき探偵"となって各出来事をジャッジしていくことや、謎が解き明かされていくにつれて、取り返しのつかなくなった事態に絶望感を抱くことが、ファルハディ監督作品の特徴だ。
行方不明になったエリの捜索過程で、イランの伝統的な結婚観や、男性優位な社会構造が浮き彫りになってくる。冒頭から常に話の中心にいて一際明るく輝いていた主人公セピデーが、後半になるにつれて文字通り声を失っていくことがその象徴だ。セピデーが、真実を話すより女性としてのエリの名誉を守ろうとするシーンも強く心に残った。
イランの中流階級の日常が描かれる。一番驚かされたのは冒頭のシーン。トンネル走行中にパリピのようなバカ騒ぎ。イランに対する先入観をいきなり覆された。
純粋無垢な子どもたちと、子どもたちまで共犯関係に巻き込もうとする大人たち。
見事なラスト。濡れた砂浜にハマった車を引き上げるのは容易ではない。車を引き上げるために協力する男たちと、部屋で一人塞ぎ込むセピデーの対比も印象的だった。
主演のゴルシフテ・ファラハニ。思わず見惚れてしまうほどの美しさがあった。鑑賞後、『パターソン』のローラだったことを知った。彼女自身、イランから亡命した過去を持っているのだそう。
波の音。
476