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配達されない三通の手紙のmarohideのレビュー・感想・評価

配達されない三通の手紙(1979年製作の映画)
3.5
 映画らしい、かつての良い時代の空気に満ちた映画だった。「八つ墓村」も担当した芥川也寸志のロマンチックで感傷的な音楽が華を添える。やはり僕は、この人の音楽がとびきり好きだな。
 原作はエラリイ・クイーンの「災厄の町」。映画化にあたり「配達されない三通の手紙」へと改題されたようだが、こちらの方がずっと良い。昔の日本人のほうがこういうセンスに対する嗅覚が鋭い気がする。

 昭和のハイクラスが有する、今は失われた華やかさや重み。濃厚なサスペンスの気配。ストーリーが面白いかと言われると実はそれほどでもないのだが、雰囲気は十分であり、そしてその雰囲気だけで成立できているタイプの作品。佐分利信が演じる家長の唐沢光政が、典型的な上流階級の長といった風情でよかった。

 舞台となった山口県萩市の空気感もよく出ており、白壁のカットが旅情を誘う。確かにこの話は中央ではなく地方でなければ雰囲気が台無しだ。
 カタコト外国人のボブを探偵役に据えたのは上手いと感心した。彼は常に利害もなにも関係ない外界から来た他人なのだ。あのクドいくらいのキャラクターを許す作品としての懐の深さにも時代を感じて好きです。

 良い映画だったが、この満足感のうち半分くらいは撮影された70年代の日本へのノスタルジーもある気がする。邦画ももう少し色々と観てみようかな。
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