デニロ

新しい背広のデニロのネタバレレビュー・内容・結末

新しい背広(1957年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

1957年製作公開。原作田宮虎彦。脚本沢村勉。監督筧正典。八千草薫を観に出掛けたのです。金はあるところをグルグル回り、持たざる者は持たざるままに流されていく。余剰の雄鶏が〆られる如くに。

台湾から引き揚げてきた兄弟小林桂樹と久保明。兄は設計事務所に勤務していて、その事務所の事務員八千草薫と恋仲だ。弟は国立大学付属高校の三年生で東大模試2位という秀才、担任からは東大受験を勧められ、本人もそのつもりでいる。が、家計は兄に頼りきりでこのまま兄に頼り続けていいものかと逡巡もする。ある夜、意を決して兄に相談するも、兄はお前の気持ちは分かるが、と辛そうに言うのだった。

兄は弟の将来を思い、自分のかんがえを整理する。弟の希望を叶えるには何かを犠牲にしなければならなくなる。彼は八千草薫に言う。/今すぐにでも君と結婚したいのだが、弟の希望を叶えてあげたい。/わたしはどうなるの。/弟が自立するまでにはあと4年かかる。/4年待てっていうの。わたし26歳になるわね。/その間にいい人が出来るかもしれない。/あなたにだって。/僕だって34歳になるんだよ。/待つわ。/

弟は、兄が八千草薫と恋仲で結婚も近いということを知り兄の胸中を思いやる。勉強は何処でもできる、兄さん、僕働いて夜間大学に行くよ。兄は、東大に行ってもいいんだぞ、と言いながらも八千草薫のイノセントでありながらも艶めかしい女をひとりじめできる歓びが湧き起こる。

兄弟愛のいい話でも何でもなく淫靡な情欲のほとばしりを感じる小林桂樹の表情で幕を閉じます。

あ、タイトルの背広は萩原朔太郎とは情感を同じにしません。

国立映画アーカイブ 東宝の90年 モダンと革新の映画史(2) にて
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