ヘソの曲り角

明日は来らずのヘソの曲り角のレビュー・感想・評価

明日は来らず(1937年製作の映画)
4.5
wikiにも書かれてる通りたしかに「東京物語」だが個人的には「ハリーとトント」も思い出した。30年代ハリウッドは不況からくる人々の苦境のリアルと根っからのロマン主義が両立していてとてつもないエネルギーを感じる。

本作では退職して金も無く銀行に家を抑えられてしまい子どもたちに頼ることになった老夫婦の姿が描かれる。5人きょうだいのうちひとりは本編に姿を見せない。両親同時には面倒見れないため別の家に住むことになるのだがやはり迷惑かけたり齟齬が起きたりでうまくいかない。両親の空気の読めなさが普通に不快で子どもたちが嫌がるのに共感できるのがまたなんとも。見れば見るほど親父のカスっぷりが分かってきてこれは老後の資金なんて残してねぇわ…と納得した。それに対して妻が諦めたうえで愛しているのが沁みる。それでも家族全員というよりあくまで老夫婦が主人公の映画であり、終盤親父を西に送り母が老人ホームに入るのが決まり最後のデートをするのだがまあそこがとんでもなくいい。街の人が優しくしてくれるのも、毎日つながらざるを得ない家族と違ってそれっきりだしという納得感があった。デートでのふたりのバランスがこれまでの50年を感じさせる息の合い方だった。ラストシーンは素晴らしく、特に静かに幕を閉じるラストショットは本当にすごい。

印象的なショット。母が息子に老人ホームに入るのを伝える時の息子が驚きながら自分から切り出す必要が無いのがわかり不意に笑みがこぼれているショット。ホテルのレストランでキスをしようとするが他人に見られてるのを気づいてやめるのだが、その目線が我々観客に向けられてるショット。そしてお別れの列車に乗り込む前人目を気にせずキスをするふたり。

PS 職業安定所に親父が行くシーンで入口に突っ立ってる男が「駅馬車」のギャンブラー役の人に見える。